転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「リサ、緊張してる?」

「ええ、少し。
 夜会なんて、数えるほどしか参加したことないから。
 それに、こういうドレスって動き難くて苦手なのよね」

 母と弟に根も葉もない悪評を流されたことで結婚前の私はほぼ家に引き籠っていたし、結婚後は一度も社交界に顔を出していない。
 これも私が考えた策の一部でなければ、夜会に参加しようなんて一生思わなかっただろう。

「夫婦だから二人で参加するのは当然なんだけど……
 私のせいで、リックが悪く言われたりしないかしら」

「そんなことにはならないよ。
 きみの悪い噂なんて、もう誰も覚えていないからね」

 侯爵令息の妻となった私の悪い噂を吹聴するほど、母と弟の頭は悪くなかったようだ。

 実体のない私の噂は、雨後の竹の子のように次々と現れる新しい噂に埋もれてしまい、とっくの昔に忘れ去られたとヘンリックは言っていた。
 私は身持ちが悪いはずなのに、私とどうこうしたことがある男性なんて存在しないので、母と弟以外から私の噂がでてくることもないのだ。

「むしろ私は、美しい妻を独り占めして隠してた狭量な夫と陰口を叩かれるかもしれないね」

「もう、リックったら」

 ヘンリックのあり得ない冗談に苦笑しながら、私は緊張が解けていった。

 私は一人ではない。
 信頼のおける友人であり、近い将来義弟になる予定のヘンリックが隣にいるのだから。
 かつて参加した夜会のように、あからさまに嘲笑されたり、侮蔑の言葉を投げつけられることなんて、あるはずがないのだ。

「頼りにしてるわ、リック」

「ああ、大いに頼ってくれ。
 それが今夜の私の役目だからね」

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