転生小説家の華麗なる円満離婚計画
 ヘンリックにエスコートされて夜会の会場に入ると、私たちを中心にさざ波のような囁きが広がった。
 
「見て、ヘンリック様が女性をエスコートなさってるわ」

「本当だ! 初めて見たわ」

「どなたかしら? 見覚えがあるような気がするけど」

「奥様ではないの? ヘンリック様は既婚でいらっしゃるのでしょう?」

「そういえば、悪評がある令嬢と結婚なさったってことじゃなかった?」

「そうだったわね。確か身持ちが悪いとかなんとかっていうことだったと思うけど」

「そんな感じには見えないわよね。あ、ヘンリック様が笑ったわ。
 奥様には、あんな顔をなさるのね」

 私は自主的に社交界から遠ざかっているが、ヘンリックも似たようなものだ。
 たまに第二王子殿下の護衛として夜会やお茶会に出ることがあっても、職務に徹してダンスやおしゃべりなどは一切しないのだそうだ。

 好奇や嫉妬の視線が突き刺さるのを感じながら、私は穏やかな笑みをうかべたままヘンリックに連れられ歩いた。

「ルーカス様に挨拶したら、軽くなにかつまもうか」

「ええ、そうしましょうね。
 お腹が空いたわ」

 会場の一画には、王城の料理人が腕によりをかけてつくった料理が並べられていて、それを食べるのを私は楽しみにしていたのだ。

「リック! 本当に来たのか!」

 第二王子殿下は仲睦まじく現れた私たちに目を丸くした。

「来ると言ったでしょう。もしかして、信じていなかったんですか」

「だって、てっきり冗談かと思って……夫人まで連れて、どういう風の吹き回しなんだよ」

「たまには美しい妻を見せびらかすのもいいかと思いまして」

「ええぇ? なにそれ?
 いや、確かに夫人は美しいけどさ」

 私たちが契約結婚していることを知っている第二王子殿下は、訝し気な顔をした。

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