転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「では、私たちはこれで。御前を失礼します」

 そんな主の前から、ヘンリックは私の手を引いて颯爽と立ち去った。
 
 なんだかいろんなことが省略されていたような気がするが、とりあえず挨拶は済んだのだからよしとしよう。

「クラリッサ」

 真っすぐ料理の方に向かおうとしていたのに、横から呼び止められてしまった。

「お父様、お母様。お久しぶりでございます」

 無視するわけにもいかず、私は立ち止まって両親に挨拶をした。
 結婚式の時以来なので、約三年ぶりに会う両親は、私の記憶より少しくたびれているように見えた。

「元気だったかい?
 社交界でも姿を見ないし、全然音沙汰がないから心配していたんだよ」

「私が病弱なのはご存じでしょう。
 ヘンリック様にとてもよくしていただいているので、心配なさらないでください」

 ね? と隣を見上げると、彼は私には作り笑顔とわかる笑顔をきれいな顔にはりつけた。

「お久しぶりですね、キルステン伯爵夫妻。
 妻のことは心配不要です。
 我が家には腕がいい医師がいますから」

 私は病弱だということで社交界から遠ざかっているが、それが嘘だということを両親は知っている。
 少なくとも、母は知っているはずだ。
 
「それにしたって、手紙を出しても梨の礫だし、里帰りだって一度もしないじゃないか。
 心配するなという方が無理だよ」

 手紙が届ているのは知っているが、一応目を通して即ゴミ箱コースにしている。
 だって、私を通してヘンリックとフューゲル侯爵家との縁を繋ぎたいというのが見え見えの内容ばかりなのだ。
 本来、貴族同士の結婚というのはそういうものではあるのだが、私たちもフューゲル侯爵家もキルステン伯爵家に便宜を図るつもりは一切ない。

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