転生小説家の華麗なる円満離婚計画
「そうよ、クラリッサ。
 たまには実家に顔を出しなさいないな。
 皆があなたに会いたがっているわ」

 私たちによくしてくれた使用人たちには会いたい気持ちはあるが、里帰りをするつもりはない。
 
「ええ、では今度、時間があるときにでも」

 肯定しているようでなんとも曖昧な返事をした私だが、父はそんな意図は通じなかったようだ。

「そうだ、ヘンリック卿。我が家の料理人は腕がいいのですよ。
 クラリッサと一緒に晩餐にお招きしましょう」

「まぁ、それはいい考えだわ!
 我が家自慢の料理でおもてなししますわ」

「それは楽しみですね」

 嬉しそうな両親に、ヘンリックは私と同じように曖昧な返事をした。

「ところで、お父様。
 私、ますますおばあ様に似てきたと思いませんこと?」
 
「ああ、本当だね。
 おまえは母上によく似ているよ。
 きれいになったね」

 父はなにも考えずに薄っぺらい称賛を口にしたが、その隣の母からは表情がすっと消えた。
 
 今の私は、銀色の髪をやや古風な形に結い上げ、上品だが装飾は控え目な水色のドレスを着ている。
 実はこの装いは、キルステン伯爵家に唯一残されている祖母の若いころの肖像画に似せてコーディネートしてあるのだ。
 きっと私の両親が声をかけてくると思っての、敢えての演出だ。

 祖母と確執があった母の瞳に、隠しきれない憎悪の光が灯った。

 母はやはり私のことが大嫌いなのだということが、改めてよくわかった。

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