森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
第8話 森の魔女
木々の中に小路の入り口が見え、長老はそこで立ち止まった。
「ここからはおふたりだけで進んでいただきます。馬や馬車は入れぬ決まり。大男でも数時間はかかる道のりですが、頑張って歩いていってくだされ」
小路は曲がりくねっていて、行く先は暗くてよくは見えない。森の奥がどうなっているのかは、誰ひとり知らないらしい。ジークヴァルトに手を引かれ、不安に思いつつも足を踏み出した。
『ふたりともいってらっしゃい』
入る一歩手前で声がした。振り返るとジークハルトがあぐらをかいて浮いている。
「ハルト様は行かれないのですか?」
『うん、この森は青龍の神気が濃すぎて、オレは入ることができないから』
雪の森を見上げると、確かに清浄な気が包んでいる。促されて歩き出す。木立の合間で手を振るジークハルトを、もう一度だけ振り向いた。
「この森は静かですのね」
「ああ、ハルトの言う通りここは神域だ」
異形どころか動物の気配もない。ピンと張り詰めた空気の中、痺れるほどの圧をリーゼロッテは全身に感じ取っていた。
抱き上げようとするジークヴァルトに首を振った。雪道を抱えて歩くのは危険そうだ。代わりに手袋の指を絡ませる。赤く染まった頬でリーゼロッテは、ジークヴァルトの顔をはにかみながら見上げた。
「疲れたら隠さずに言え。そのときはオレが運ぶ」
ジークヴァルトなりの譲歩なのだろう。難しい顔のまま歩き出した。静寂の銀世界に、雪を踏みしめる音だけが響いていく。
恋人つなぎがうれしくて、つながった手を意味もなく前後に揺らす。貴族のエスコートには程遠いが、曲がりくねった雪の一本道を、ふたりきりでしばらく歩いた。
「疲れてないか?」
「はい、大丈夫ですわ」
「もう疲れただろう」
「まだ大丈夫です」
「いい加減、疲れたんじゃないのか?」
「わたくしまだまだ歩けますわ」
口元に白い息を纏わせながら、そんなやりとりが繰り返される。
「もう、ヴァルト様ったら。疲れたらちゃんと言いますから」
呆れ半分に見上げると、絡めた指を強く握り返された。手を引かれ、いきなり抱きしめられる。うなじに指が滑り込み、頬が胸板に押しつけられた。
「ここからはおふたりだけで進んでいただきます。馬や馬車は入れぬ決まり。大男でも数時間はかかる道のりですが、頑張って歩いていってくだされ」
小路は曲がりくねっていて、行く先は暗くてよくは見えない。森の奥がどうなっているのかは、誰ひとり知らないらしい。ジークヴァルトに手を引かれ、不安に思いつつも足を踏み出した。
『ふたりともいってらっしゃい』
入る一歩手前で声がした。振り返るとジークハルトがあぐらをかいて浮いている。
「ハルト様は行かれないのですか?」
『うん、この森は青龍の神気が濃すぎて、オレは入ることができないから』
雪の森を見上げると、確かに清浄な気が包んでいる。促されて歩き出す。木立の合間で手を振るジークハルトを、もう一度だけ振り向いた。
「この森は静かですのね」
「ああ、ハルトの言う通りここは神域だ」
異形どころか動物の気配もない。ピンと張り詰めた空気の中、痺れるほどの圧をリーゼロッテは全身に感じ取っていた。
抱き上げようとするジークヴァルトに首を振った。雪道を抱えて歩くのは危険そうだ。代わりに手袋の指を絡ませる。赤く染まった頬でリーゼロッテは、ジークヴァルトの顔をはにかみながら見上げた。
「疲れたら隠さずに言え。そのときはオレが運ぶ」
ジークヴァルトなりの譲歩なのだろう。難しい顔のまま歩き出した。静寂の銀世界に、雪を踏みしめる音だけが響いていく。
恋人つなぎがうれしくて、つながった手を意味もなく前後に揺らす。貴族のエスコートには程遠いが、曲がりくねった雪の一本道を、ふたりきりでしばらく歩いた。
「疲れてないか?」
「はい、大丈夫ですわ」
「もう疲れただろう」
「まだ大丈夫です」
「いい加減、疲れたんじゃないのか?」
「わたくしまだまだ歩けますわ」
口元に白い息を纏わせながら、そんなやりとりが繰り返される。
「もう、ヴァルト様ったら。疲れたらちゃんと言いますから」
呆れ半分に見上げると、絡めた指を強く握り返された。手を引かれ、いきなり抱きしめられる。うなじに指が滑り込み、頬が胸板に押しつけられた。