森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「ひゃっ」

 いきなり膝をすくい上げられて、横抱きに抱え上げられた。高くなった視界に驚いて、ジークヴァルトの首にしがみつく。
 大股でジークヴァルトは、隣室に足を踏み入れた。明かりのない真っ暗な部屋の中、リーゼロッテはゆっくりと仰向けのまま降ろされる。

 頭にあたったやわらかな感触に、それが枕なのだと理解する。少し慣れてきた目で見まわすと、リーゼロッテが五人は眠れそうな、大きな寝台の上にいることが分かった。

 スプリングがぎしりと鳴って、横たわった体が右に左に順に沈んだ。真正面を見上げると、自分をまたぐようにジークヴァルトが膝立ちをしている。

 そのジークヴァルトは、上着を首から抜き取るところだった。手にした服を無造作に放り投げると、遠くで布が落ちる音がした。
 隣の部屋の明かりが、ジークヴァルトの裸の上半身を照らしている。横から射す頼りない光だけが、均整の取れた筋肉の凹凸(おうとつ)を浮かび上がらせた。

 初めて見るジークヴァルトの裸体に、視線は釘付けとなった。鳩尾(みぞおち)にある龍のあざが目にとまり、次いで肩口の傷の引きつれが目に入る。

 状況が把握できなくて、リーゼロッテは(ひじ)をついて身を起こそうとした。そこを肩を押されて、枕へと頭が再び沈む。
 馬乗りになったジークヴァルトが、ぐいと顔を近づけてきた。青い瞳がリーゼロッテを捉えたまま、口元に魔王の笑みを刻みこむ。

「十秒経ったぞ。覚悟はいいな?」

 そう言ってジークヴァルトは、リーゼロッテに噛みつくようなキスをした。


(って、十秒って短すぎます、ヴァルト様……!)

 脳内の叫びは、熱い吐息に飲み込まれていき――


 その夜、ジークヴァルトとリーゼロッテは、名実ともに夫婦となった。






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