森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「誓いならば先ほど泉で果たしただろう。問題ない。オレたちは正式に夫婦となった」
「え……?」

 言われた意味を理解できなくて、リーゼロッテは一瞬抵抗を忘れた。

「ででで、ですが! 神殿で神官様に、きちんと許可をいただかないとならないですし!」

 アンネマリーの(おごそ)かな結婚式を思い出して、これならどうだと必死に訴えた。

「そんなもの、欲深い神官どもが勝手に定めたことだ。問題ない。(つい)の託宣を受けた者の婚姻は、泉での神事が真の(あかし)だ」
「ですがわたくし、心の準備が……っ!」

 回避する(すべ)がなくなったことを知り、真っ白な頭でリーゼロッテは大きく叫んだ。その瞬間、ジークヴァルトの動きがぴたりと止まる。

「……そうか」

 静かに言って、のしかかっていた身を起こす。触れていた手も、あっさり引き上げられた。

(た、助かった……)

 放心状態で体を起こした。そんなリーゼロッテに、ジークヴァルトがぐいと顔を近づけてきた。

「ならば十ビョウやる」
「十ビョウ……?」

 そう言われて頭に浮かんだのは、十個の赤いリンゴだった。いちビョウあれば怪我知らず、三ビョウあれば風邪知らず、十ビョウあれば寿命が延びる。次いでわらべ歌が脳内に流れ出す。

< 133 / 167 >

この作品をシェア

pagetop