森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「あのジークヴァルトがかぁ? 可愛い義娘(むすめ)との戯れじゃないか、なぁ、ヴァルト」
「あら、そんな事言って。だったらわたしもお義父(ジークベルト)様にもっと抱き上げていただけばよかったわ」
「なにぃっ、父上であったとしてもそんなことは許せんぞ! リンデを抱き上げていいのはこのオレだけだ!」
「だったらジークヴァルトの気持ちも分かるというものでしょう?」
「おおう、それもそうだな。悪かったジークヴァルト」
「いえ、金輪際しないというのなら、今回は問題ありません」

 タイミングがつかめなくてやりとりを見守っていると、ディートリンデとふと目があった。挨拶しなければと気ばかり焦る。腕の中で懸命に身をよじるが、どうあってもジークヴァルトは自分を降ろそうとしなかった。
 それによくよく見ると、ディートリンデもジークフリートに抱え上げられている状態だ。お互い鏡写しの状況のまま、リーゼロッテは仕方なしに覚悟を決めた。

「ディートリンデ様、ご挨拶が遅れ失礼をいたしました。この度ジークヴァルト様に妻として迎えていただきましたリーゼロッテと申します。ふつつかな嫁ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 横抱きにされた状態で、なんとも締まらない挨拶となってしまった。だが相手も同じ条件だ。そこを突っ込まれる余地はさすがにないだろう。

 しかしディートリンデはすん、となって、途端に冷たい表情を返してきた。

「会ったことのある相手に、こんな不義理な挨拶をするなんて……あなたにそんなことを教えたつもりはなくってよ?」
「えっ!?」

 ジークヴァルトの母親に会ったことなどあっただろうか? 貴族名鑑で顔を確認した覚えはあるが、どんなに記憶を辿ってもディートリンデと会った記憶などまるでなかった。
 怒らせたらヤバい人なのだ。なんとか取り(つくろ)うとするも、焦るばかりでうまい言葉が見つからない。このままでは本格的に怒らせてしまう。青ざめてリーゼロッテは、みるみるうちに涙目になった。

「あ、あの、わたくし……」
「ああ、そうね、見た目が違うから分からないのね。これなら思い出すのではないかしら?」

 言いながらディートリンデは、首に下げていたチェーン付きの丸眼鏡をかけた。次いで降ろした髪をひとまとめにし、手で押さえながら高い位置でお団子ヘアを作ってみせる。

「ロッテンマイヤーさん!?」

 大声で叫んでから、はっと口を覆った。その姿は見紛うことなく、子どものころにお世話になったマナー教師のご夫人だった。
 しかし彼女の本名はアルブレヒツベルガー夫人だ。思わず脳内ネームを口にしてしまって、リーゼロッテはさらに顔を青ざめさせた。

「ほら、ちゃあんと覚えているじゃない」

 妖しい笑みを作って、ディートリンデはまとめた髪を振りほどいた。







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