森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 馬車の中では甘い口づけが続き、宿に着けば着いたで体を求められてしまう。そんな日が続いて、ようやく王都の街並みが見えてきた。
 だんだん見覚えのある風景が多くなってきて、リーゼロッテは帰ってきたという安心感で、胸がいっぱいになった。

「もうすぐフーゲンベルク領ですわね」
「ああ」

 帰り着く日くらいはゆっくり馬車に乗せてくれ。そう懇願した甲斐があって、旅の最終日は平和そのものだ。

(ぐったりして帰ったりしたら、エラやみなに心配かけてしまうもの)

 そんなことを思ってふと笑みがこぼれた。公爵家のお屋敷を思い浮かべると、とてもこころがあたたかい。

 しばらく行くと、老若男女問わず街中のひとが、馬車を見つけては手を振ってくるようになった。

「ヴァルト様、見てくださいませ、みなが手を……!」

 帰ってきた領主に向けて、みながよろこびの声を上げている。そう思ったリーゼロッテの耳に、馬車を追いかける子どもたちの祝いの言葉が届けられた。

「りょうしゅさまー、おくさまー、ごけっこん、おめでとうございますー!!」

 気のせいでなければそう聞こえた。思わず振り返ると、見上げた先ジークヴァルトに唇を塞がれた。

「んんんっ、んわぁるとふま、きゅうはどぅわめっていっふぁのにぃ……っ!」

 抗議の声は口づけに飲まれていく。その間も領地中が、ふたりの結婚に沸き返っていた。何も知らなかったのは、やはり自分ひとりだけなのだ。

 顔を真っ赤にしたまま屋敷に到着した。ジークヴァルトに抱えられて降りた先で、みなに出迎えられる。出発した時と同じように、使用人一同が整然と並び立っていた。

「お帰りなさいませ、旦那様、リーゼロッテ奥様」

 マテアスがきっちりと腰を折ると、使用人たちも一斉に頭を下げる。

「ただいま、マテアス。エラも、みんなも……」

 安堵のあまり、思わず涙ぐんだ。自分が帰りつくのは、これから先ずっとフーゲンベルク家なのだ。ジークヴァルトがいるこの場所が。

 腕の中、青い瞳と見つめ合う。リーゼロッテは上目遣いではにかんだ。

「わたくし、ヴァルト様の妻として、これから精一杯頑張りますわ」

 言い終わる前に、唇を塞がれた。使用人から歓声が上がる中、盛大に公爵家の呪いが発動する。

「さぁ! みなさん、出番ですよ!」

 想定済みの展開に、家令となったマテアスがすかさず号令をかけた。フォーメンションを組みながら、使用人たちが家具一式を押さえにかかる。

 きゅるるん小鬼を引き連れて、呪いを発動させたままのジークヴァルトが屋敷の中を闊歩(かっぽ)する。その腕に包まれて、リーゼロッテはしあわせを噛みしめた。

 フーゲンベルク公爵夫人として過ごす日々が、これから新たにはじまるのだった。





 森の魔女と託宣の誓い 終

▶嘘つきな騎士と破られた託宣(龍の託宣6)に続く

        (新規小説で投稿中)





※このあと続けて登場人物紹介と番外編を2話投稿します

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