森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 そんなディートリンデたちに見送られて、迎えの馬車へと乗り込んだ。新たな家族との別れに、一抹のさみしさを感じてしまう。

「ここからはまた馬車での移動なのですね」
「今のお前の状態で、馬に乗るのはつらいだろう?」

 平然と言われて顔を赤らめた。本当に誰のせいだと思っているのだ。

 いつものように抱き上げられた膝の上、リーゼロッテはすかさず先制攻撃を繰り出した。

「ヴァルト様。馬車の中では髪はいくらでも梳いてよろしいですけれど、口づけは唇にだけ、回数も乗るごとに一回だけにしてくださいませ」

 同じ(てつ)は踏むものか。絶対に引かない覚悟で、きっぱりと言い切った。ジークヴァルトは宣言した通りに、帰りの道中でまるで書類仕事をしない。隙あらばリーゼロッテに手を出してこようとする勢いだ。

「乗るごとに一回は少なすぎるだろう。せめて一時間に一度だ」
「……分かりましたわ。ですが、絶対に口以外は駄目ですわよ?」

 律儀に交渉してくるジークヴァルトに呆れつつ、そのくらいならとリーゼロッテは妥協した。

(それにしてもジークフリート様って、あんな感じの方だったのね……)

 走り出した馬車の中、遠ざかる砦に目を向ける。記憶の中のジークフリートは、もっとダンディなイケおじだった。初恋の思い出は、思い出のままの方がしあわせなのかもしれない。脳筋を感じさせるジークフリートを頭に浮かべて、リーゼロッテはそんなことを考えてしまった。

「何を考えている?」

 不機嫌そうな声に思考を遮られる。どうやらジークヴァルトは、リーゼロッテの注意が自分に向いてないのが許せないらしい。そんなことが分かってきて、本当に愛されているのだとリーゼロッテは自然と笑顔になった。

「わたくしが考えているのは、いつだってヴァルト様のことですわ」

 はにかんで見上げると、絶句したようにジークヴァルトは固まった。次いで呆れたように息をつく。

「お前……そんなに可愛いことを言うと、我慢できなくなるだろう」
「え……?」

 いきなり荒く口づけられた。手首を取られ、うなじをホールドされる。

「んっふ、ぅん、ふむぅ、うぅん」

 苦しくて懸命に肩を押した。それなのにいつまでたってもジークヴァルトはキスをやめようとしない。唇をくっつけたまま、どうにかこうにか抗議する。

「い、一時間に一度だけだって……!」
「離さなければ全部で一度だ」
「えっあっそん、なっ」

 ブーイングは熱い舌に絡み取られ、結局は次の宿に着くまで、唇を離してもらえなかったリーゼロッテだった。

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