森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 (うら)らかな陽気のまどろみの中、リーゼロッテはふと目を覚ました。見上げると書類に目を落とすジークヴァルトがいる。
 伏せ気味の青い瞳が、真剣に文字を追っていく。その横顔に見惚れながら、次第にまぶたが重くなった。瞳を閉じてすり寄ると、青の波動が包み込む。

 あたたかくて心地よくて、深くまで触れていたくなる。ねだるように引き込むと、青の力がするする身の内に入ってきた。もっともっとと願うままに、すべてがジークヴァルトで満たされていく。

 そこまできてリーゼロッテははっと顔を上げた。
 目の前には、小鬼たちがはしゃぎまわるサロンが広がっている。壁際にカークが立っていて、自分はジークヴァルトの膝の上だ。食べかけの菓子に飲みかけの紅茶。その横にはなぜか、うず高く積み上げられた書類の山が。

「わたくし眠ってしまってお仕事の邪魔を……!」
「いや、問題ない」

 午後のティータイムをたのしんでいたはずだった。眠りこけた自分を起こさないようにと、時間が来ても執務室には戻れなかったのだ。
 きっとマテアスがここまで書類を運んだのだろう。サロンが簡易執務室のようになっていて、かけさせた手間を思うと申し訳なくなる。

 ジークヴァルトの紅茶はテーブルの(すみ)、遠くまで追いやられ、まだひと口も飲んでいない。あわてて膝から降りようとするも、逆に肩を引き寄せられた。

「気持ちよさそうに寝ていた。よく眠れたか?」
「はい……ヴァルト様のお膝の上は心地よくて……」

 もじもじしながら本音を答えた。以前だったら言えないようなことも、今はすべて伝えたくて仕方がない。

「そうか」

 肩口辺りまで短くなった髪を()きながら、ジークヴァルトはふっと笑った。公爵家に戻ってから、頻繁にこんなやさしい顔を向けられる。恥ずかしくて胸板に頬ずりすると、いまだジークヴァルトの力を吸い込んでいたことに気がついた。

「わたくしったらヴァルト様のお力を!」

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