森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
◇
ロミルダの声掛けに目を覚まし、気だるげな体を起こす。ぼんやりと見回すと、知らない部屋の壁紙が目に映った。
「エラ様……? 入ってもよろしいですか?」
「え、あ、はいっ、いえ、ちょっと待って!」
素っ裸のままでいたことに気づき、慌てて服を手に取った。しわを伸ばしてふんわりと置かれていたドレスに、マテアスの気遣いが見て取れる。
見ると朝も遅い時刻だ。とっくにリーゼロッテの朝食も終わっている時間に、エラは顔を青ざめさせた。
「そんなに慌てなくても大丈夫でございますよ。リーゼロッテ様ならきちんとお世話させていただいておりますから」
「あの、ロミルダ。わたしはもう貴族ではないので、敬語は必要ないです。それにわたしはマテアスの……」
「ああ、そうだったわね。こんな可愛い娘ができて、わたしも本当にうれしいわ」
「はい、その、ロミルダ、これからもよろしくお願いします」
初夜の乱れた寝所を義母に整えさせるわけにはいかない。エラは慌てて軋む体で動き出した。
「今日は体がつらいでしょう? いいからわたしに任せなさい。まったくマテアスときたら、昔からこうと決めたら行動が早いものだから……。そのくせ下準備が完璧に整わないと、眠れないくらいに落ち着かなくなったりするのよ。これからいろいろと苦労すると思うけど、何かあったら遠慮なく言ってちょうだいね」
「はい、ありがとうございます。それでマテアスは一体どこに……?」
「今朝早くに王都へ出かけていったわ。良く寝てるから起こさないでくれって言われていたの。よっぽどあなたと結ばれたのがうれしかったのね。あんなに締まりのない息子を見るのは本当に久しぶりよ」
ロミルダの言葉に夕べの記憶がよみがえる。初めてのエラに、マテアスは本当に気を遣ってくれたようだ。時間をかけて身も心もほぐされて、聞いていたほど痛い思いをすることはなかった。
夫婦の契りは想像の範囲内の行為ではあったが、確かに知識だけでは知り得ないこともたくさんあった。
「もっとちゃんと夫婦にならないと……」
リーゼロッテに助言できるくらいには、経験を積み重ねる必要がある。それに侍女としての役割も、今まで通りきちんとこなしていかなくてはならなかった。
思い描いていた人生設計とは、すべてが真逆になってしまった。だが後悔は微塵も感じていない。
晴れやかな気分の中で、エラの結婚生活が新たに始まったのだった。
ロミルダの声掛けに目を覚まし、気だるげな体を起こす。ぼんやりと見回すと、知らない部屋の壁紙が目に映った。
「エラ様……? 入ってもよろしいですか?」
「え、あ、はいっ、いえ、ちょっと待って!」
素っ裸のままでいたことに気づき、慌てて服を手に取った。しわを伸ばしてふんわりと置かれていたドレスに、マテアスの気遣いが見て取れる。
見ると朝も遅い時刻だ。とっくにリーゼロッテの朝食も終わっている時間に、エラは顔を青ざめさせた。
「そんなに慌てなくても大丈夫でございますよ。リーゼロッテ様ならきちんとお世話させていただいておりますから」
「あの、ロミルダ。わたしはもう貴族ではないので、敬語は必要ないです。それにわたしはマテアスの……」
「ああ、そうだったわね。こんな可愛い娘ができて、わたしも本当にうれしいわ」
「はい、その、ロミルダ、これからもよろしくお願いします」
初夜の乱れた寝所を義母に整えさせるわけにはいかない。エラは慌てて軋む体で動き出した。
「今日は体がつらいでしょう? いいからわたしに任せなさい。まったくマテアスときたら、昔からこうと決めたら行動が早いものだから……。そのくせ下準備が完璧に整わないと、眠れないくらいに落ち着かなくなったりするのよ。これからいろいろと苦労すると思うけど、何かあったら遠慮なく言ってちょうだいね」
「はい、ありがとうございます。それでマテアスは一体どこに……?」
「今朝早くに王都へ出かけていったわ。良く寝てるから起こさないでくれって言われていたの。よっぽどあなたと結ばれたのがうれしかったのね。あんなに締まりのない息子を見るのは本当に久しぶりよ」
ロミルダの言葉に夕べの記憶がよみがえる。初めてのエラに、マテアスは本当に気を遣ってくれたようだ。時間をかけて身も心もほぐされて、聞いていたほど痛い思いをすることはなかった。
夫婦の契りは想像の範囲内の行為ではあったが、確かに知識だけでは知り得ないこともたくさんあった。
「もっとちゃんと夫婦にならないと……」
リーゼロッテに助言できるくらいには、経験を積み重ねる必要がある。それに侍女としての役割も、今まで通りきちんとこなしていかなくてはならなかった。
思い描いていた人生設計とは、すべてが真逆になってしまった。だが後悔は微塵も感じていない。
晴れやかな気分の中で、エラの結婚生活が新たに始まったのだった。