森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 しかしハインリヒの跡継ぎは、いまだアンネマリーのお腹の中だ。順調にいったとしても、その子が王位を引き継げるのは、あと十六年はかかる見積りだった。

(長くて三十年かかった王もいると聞く……)

 これは何の拷問だろうか? 王太子時代の苦悩も葛藤も、この胸に誓った決意ですら、今では陳腐な喜劇に思えてくる。

 ――当代の王よ、そろそろ顔を上げた方が良いぞ

 この声は中でもまともな助言をくれる王だ。そう思いハインリヒは意識を評議場に戻した。みながこちらに注目している。じっと押し黙り、何かを待っているようだ。

 自分に意見を求めているのだ。それが分かりハインリヒは再び目を閉じた。誰ももったいぶっているわけではない。何と返答したものか、考えあぐねているだけのことだった。

 この奇妙な空白の()も、貴族たちの目には王の威厳(いげん)と映っているらしい。それがせめてもの救いだが、これまで押し殺してきたため息は数知れない。

 ――まずは領民の生活を最優先に!
 ――屋敷の雇用は継続じゃ!
 ――適切な監督人は宰相に選ばせよ!

 頭の中の王たちが矢継(やつ)(ばや)に伝えてくる。こういったとき、うるさいおしゃべりも控えめになった。しゃべらずにいられるというのなら、ずっと口をつぐんでいてほしいものだ。

「まずは領民の生活を最優先にして事を進めるように。伯爵家の雇用は継続し、いかなる者も不当に解雇してはならない。不正を精査するにあたって監督人を伯爵家に遣わせること。人選は宰相に任せる。適切な者を選ぶといい。罪状を決めるのはすべてが明るみに出てからだ」

 評議場を見回して、ハインリヒは重い声を響かせた。どの貴族も納得顔だ。内心は盛大に安堵して、何食わぬ顔で豪奢(ごうしゃ)な椅子から立ち上がる。

「宰相、あとは任せた」
「仰せのままに、ハインリヒ王」

 物々しい雰囲気の中、ハインリヒは悠然と評議場を後にした。

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