森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 ジークヴァルトの怒りように、リーゼロッテがどうにかなったのだろうという事は、容易に予想はついた。言わされるがままあんな台詞を口にしたが、よもやこんな事態に(おちい)っていようとは。あまりの驚きに、報告書を前に何度も我が目を疑ったほどだ。

 だがそんな言い訳がジークヴァルトに通用するはずもない。そもそも国の記憶を受け継いだことは、王だけが知る秘匿(ひとく)の事項だ。この事実は最愛のアンネマリーにすら話せないでいる。龍の意思が介在している以上、何が起きてものらりくらりと(かわ)すしかなかった。

(明日にもヴァルトの登城が再開される)

 リーゼロッテを取り戻したとは言え、ハインリヒの行いに対して、いまだ不信感を抱いているはずだ。同じ立場に立たされて、もしもアンネマリーを奪われたならば――。

 考えるまでもなく、出てくる答えはたったひとつだ。自分なら相手を殺しに行くだろう。それこそ国も民もすべて捨て去って、復讐の道を迷わず選ぶに違いない。

 そこまで思って、再び重いため息が口をついた。今ここでジークヴァルトを失うのは大きな痛手だ。政務的に言ってもそうなのだが、やはり気の置けない存在は、ハインリヒにとって掛け替えのないものだった。

「どうしたものか……」

 こんな時ばかりは、歴代の王たちは何も助言してこない。こうるさいおしゃべりをBGMに、ハインリヒはずっと思案に明け暮れていた。

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