森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「なんなりと」
「シネヴァの巫女に託宣の神事の許可を出した。行ったついでだ。オデラ()でザスとメアの誓いの儀式を行って来るといい」
「な……――っ!」

 衝撃に言葉を詰まらせた。オデラ湖での儀式は、対の託宣を受けた者の婚姻の(あかし)だ。動揺する心をどうにか押さえ、ようやくの思いで口を開いた。

「だが婚姻の託宣はまだ……」
「真面目だな。対の託宣を受けた者のうち、婚姻を前倒しにしなかった事例の方が少ないくらいだぞ」

 真面目が専売特許のハインリヒに鼻で笑われる。婚姻の託宣が降りる前に子ができて、前倒しで結婚する者は、実のところ半数以上を占めていた。

「いやしかしオレたちはまだ……」

 リーゼロッテに子ができた訳でもない。何しろ(ちぎ)りもまだ交わしていないのだ。そんな状況で龍が婚姻を許すとは思えなかった。

「確かに我らは龍の加護の(もと)にある。だがすべてが言いなりというわけではない。わたしもこの国の王となった。心配せずとも、それくらいの裁量(さいりょう)は許された身だ」

 ハインリヒは余裕の笑みを口元に浮かべた。うろたえるジークヴァルトがそんなに可笑(おか)しかったのか、観察するように返答を待っている。

「本当に……そんなことが許されるのか……?」
「くどいな。リーゼロッテ嬢にはお前とは別に王命を出そう。ダーミッシュ家には王家から連絡しておく。出立(しゅったつ)まで王城に出仕する必要はない。よく心づもりして準備を進めろ」

 そう言ってハインリヒは玉座から立ち上がった。

「以上だ。もう下がっていい」

 王のマントを(ひるがえ)し、ハインリヒは壇上を降りていく。礼を取ることも忘れて、ジークヴァルトは茫然と(たたず)んだ。

「ふっ、間抜け(づら)だな。これもわたしなりの罪滅ぼしだ。その代わり、戻ったら今まで以上に働いてもらうぞ」

 どこか遠くを見据える瞳ではあるものの、王太子時代と変わらない口調でジークヴァルトをいたずらに見やった。

「いいからさっさと帰れ」

 それだけ言い残し、ハインリヒは悠然と玉座の間を出ていった。

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