森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 回らない頭で、ジークヴァルトはふらふらと歩き出す。王城の広い廊下に出て、それほど行かないうちに大きな柱にごつんとぶつかった。

「副隊長……!?」

 廊下にいたキュプカー隊長が、慌てて駆け寄ってくる。キュプカーはリーゼロッテが消えた日に、事の次第を()の当たりにしていた。今日もジークヴァルトが何かをしでかすのではないかと、後ろでハラハラと見守っていた口だった。

「大丈夫か? 一体王に何を言われたんだ?」

 ハインリヒ王は先ほど何事もなかったように去っていった。ジークヴァルトが食ってかかった様子もなくて、安堵していた矢先のことだ。

 明らかに普段と違うジークヴァルトに、キュプカーは顔を曇らせる。神事の騒ぎで王が取った行いは、決して()められるものではなかった。それを口にすることはできないが、キュプカーはずっとジークヴァルトに同情的だ。
 だから先日の騎士団の訓練では、リーゼロッテが無事に戻ってきたことに、キュプカーは心からよろこんだ。ジークヴァルトの表情も穏やかで、すべてが元通りになったのだと、そんなふうに考えていたのだ。

「副隊長……?」

 心ここに()らずなジークヴァルトが、本格的に心配になってくる。こんな(うわ)の空な彼は、今まで一度も見たことがない。

「いや大丈夫だ、問題ない」

 ジークヴァルトはふらふらと歩き出した。まったく大丈夫そうには見えないが、本人がそう言っている以上、黙ってその背を見送った。しかしその先で再び柱にぶつかる姿が目に入る。

「いや、ちょっと待ってくれ。副隊長、本当に何があったんだ?」

 もう一度呼び止めるも、ジークヴァルトは構わず先へと進んでいく。打ち付けた額が赤くなって痛々しい。しかしそんなことはまるで気にしていない様子に、キュプカーはひたすら戸惑った。

 そんなジークヴァルトがふいに上方を見やった。普段の顔つきに戻って、宙の一点を睨みつけている。「ハルト?」と呟いたかと思うと、何もない空間に大きく手を伸ばした。

「リーゼロッテ……!」

 次の瞬間、ジークヴァルトがその場から()き消えた。

「副隊長!?」

 辺りの廊下を見回すも、そこにいたはずの姿はどこにも見当たらない。

「……オレは疲れているのか?」

 ごしごしと目をこすりながら、キュプカーはしばらく休暇を取ろうかと、そんなことを真剣に考えた。

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