森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
 おまけにリーゼロッテの話も曖昧(あいまい)始終(しじゅう)した。龍に目隠しされてうまく伝えられない様子に、つらい事は思い出させたくないと、それ以上は強く聞けなかったジークヴァルトだった。

 すべてが不可解で、何もかも分からないまま、事はあっさりと片づけられてしまった。ハインリヒに問い詰めたところで、この立場を危うくするだけのことだろう。それが分かっているため、動かないでいる。だが本心から納得しているかどうかは、また別の問題だ。

「さて神託についてですが、公爵様の役割は、シネヴァの巫女に降りた言霊(ことだま)を持ち帰ることにあります。()の地へと辿(たど)る道のりも、良き方角を巡って頂く必要がございます。決めごとが多いため、詳細は書面にて公爵家に直接届けましょう」
「承知した」

 どうあってもこの流れに逆らうことはできない。過去の怨嗟(えんさ)にしがみつくよりも、リーゼロッテとの未来を見据(みす)えなくては。

「それではわたしどもは神殿に戻らせて頂きます」

 神官たちがジークヴァルトの脇を通り、玉座の間を後にした。過ぎざまに、ひとりの神官が密やかに(わら)ったのを感じ取る。

 あの盲目の神官だ。いつだか神官長に紹介された覚えがあるが、名は何と言っただろうか。あの日リーゼロッテが、この男に対して必要以上に(おび)えていたことを思い出す。

「人払いを」

 ふいにハインリヒの重い声が響いた。王の言葉を受けて、近衛の騎士がひとり残らず辞していく。
 残されたのはジークヴァルトのみだ。誰もいなくなったことを確かめて、壇上の玉座で頬杖をつくハインリヒを、真正面から睨み上げた。

「ジークヴァルト、お前にはもうひとつ王命を授ける」

 口調を崩しながらも、王としての態度はそのままだ。そんなハインリヒに対して、ジークヴァルトは慇懃無礼(いんぎんぶれい)に腰を折った。

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