森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
◇
「こ、公爵様!?」
いきなり浴室から現れたジークヴァルトに、エラが小さく悲鳴を上げた。
「どうしてここを使った?」
「あちらのお部屋の湯の出が悪くて……でもなぜ公爵様が」
「不測の事態だ。もう問題ないが彼女についていてくれ」
エラがリーゼロッテの元に行ったのを確かめると、ジークヴァルトは部屋を出た。ここはリーゼロッテが以前使っていた客間だ。ジークヴァルトの部屋からいちばん遠い場所にある。
使うこともなくなって、ジークヴァルトの力が薄れていたようだ。そこを異形に狙われた形だ。あの程度の強さの異形なら、今のリーゼロッテの脅威にはならない。そうは思うが、もしジークハルトが自分を呼ばなかったなら、一体どうなっていたことだろう。
出た廊下では、そのジークハルトがあぐらをかいて待っていた。宙に浮いたまま体を揺らし、たのしげな視線を向けてくる。
『いいところを呼んであげたんだし、せっかくだから一緒に入ってくればよかったのに。王城で婚姻の前倒しの許可をもらったんでしょ?』
「許可は出たが、まだ婚姻を果たしたわけではない」
『似たようなものじゃない、ほんとヴァルトってやせ我慢が好きだよね。もうしょうがないな~。最後まで我慢するって言うなら、オレもヴァルトにつきあうけどさ』
肩を竦めてへらりと笑う。そんな守護者をジークヴァルトは真っすぐと見つめた。
「……今日は助かった。礼を言う」
『どーいたしまして』
そう言ってうれしそうに目を細める。
――自分にはジークヴァルトを守ることはできないから
だからヴァルトの大事なリーゼロッテだけは、一緒に守ってあげる。
守護者の小さなつぶやきは、ジークヴァルトの耳には届かない。リーゼロッテの支度が整うのを待つ姿に、ジークハルトは穏やかな瞳を向けた。
『ねぇ、ヴァルト』
「なんだ?」
『それ大丈夫? すっごく鼻血が出てるけど』
ジークヴァルトは無表情のまま、これ以上なく逆上せ上っている。確かめるように鼻を押さえるも、ぼたぼたと床に落ちるは見事な鮮血だ。
『あの程度でこんなになるなんてな~。想像ではあんなすごいことしてるのに、ヴァルトって案外初心だよね』
初夜の寝台ではどうなるやらと、呆れを交えつつ、ジークハルトは満面の笑顔になった。
「こ、公爵様!?」
いきなり浴室から現れたジークヴァルトに、エラが小さく悲鳴を上げた。
「どうしてここを使った?」
「あちらのお部屋の湯の出が悪くて……でもなぜ公爵様が」
「不測の事態だ。もう問題ないが彼女についていてくれ」
エラがリーゼロッテの元に行ったのを確かめると、ジークヴァルトは部屋を出た。ここはリーゼロッテが以前使っていた客間だ。ジークヴァルトの部屋からいちばん遠い場所にある。
使うこともなくなって、ジークヴァルトの力が薄れていたようだ。そこを異形に狙われた形だ。あの程度の強さの異形なら、今のリーゼロッテの脅威にはならない。そうは思うが、もしジークハルトが自分を呼ばなかったなら、一体どうなっていたことだろう。
出た廊下では、そのジークハルトがあぐらをかいて待っていた。宙に浮いたまま体を揺らし、たのしげな視線を向けてくる。
『いいところを呼んであげたんだし、せっかくだから一緒に入ってくればよかったのに。王城で婚姻の前倒しの許可をもらったんでしょ?』
「許可は出たが、まだ婚姻を果たしたわけではない」
『似たようなものじゃない、ほんとヴァルトってやせ我慢が好きだよね。もうしょうがないな~。最後まで我慢するって言うなら、オレもヴァルトにつきあうけどさ』
肩を竦めてへらりと笑う。そんな守護者をジークヴァルトは真っすぐと見つめた。
「……今日は助かった。礼を言う」
『どーいたしまして』
そう言ってうれしそうに目を細める。
――自分にはジークヴァルトを守ることはできないから
だからヴァルトの大事なリーゼロッテだけは、一緒に守ってあげる。
守護者の小さなつぶやきは、ジークヴァルトの耳には届かない。リーゼロッテの支度が整うのを待つ姿に、ジークハルトは穏やかな瞳を向けた。
『ねぇ、ヴァルト』
「なんだ?」
『それ大丈夫? すっごく鼻血が出てるけど』
ジークヴァルトは無表情のまま、これ以上なく逆上せ上っている。確かめるように鼻を押さえるも、ぼたぼたと床に落ちるは見事な鮮血だ。
『あの程度でこんなになるなんてな~。想像ではあんなすごいことしてるのに、ヴァルトって案外初心だよね』
初夜の寝台ではどうなるやらと、呆れを交えつつ、ジークハルトは満面の笑顔になった。