森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
「今回の旅にはわたしはついて行けないのですね……」

 旅路の支度を進めながらも、エラはずっと同じ台詞を言い続けている。

「今回は王命だし、行く先々でちゃんとお世話係を用意してくれるそうよ? エラは新婚なんだもの。マテアスとふたりの時間を心ゆくまで過ごしてちょうだい」

 侍女はいなくても大概のことはひとりでできる。エラの心配をよそに、リーゼロッテは始終うきうき顔だ。

 この国は南北に延びた縦長の地形で、四方を山脈で囲まれている。最南に王都があり、今回目指すは最北の地であるシネヴァの森だ。(ちまた)では森には魔女が住むと言われているが、王族の血筋の巫女姫が神事を務めているのが本当のところだ。

(巫女姫と言っても、相当お年を召しているのよね)

 クリスティーナ王女から聞いた話では、森の巫女は彼女の高祖(こうそ)伯母(はくぼ)とのことだった。いつかハインリヒにも言われたが、会えば魔女と呼ばれる所以(ゆえん)が分かるらしい。

(普通に考えて百歳は超えてそうだわ……やっぱり白雪姫とかシンデレラに出てくる魔女みたいな方なのかしら……?)

 黒い魔女服にとんがり帽子。鷲鼻(わしばな)の魔女が(ほうき)に乗って空を飛ぶ。そんな想像がリーゼロッテの頭の中を駆け抜けた。

< 61 / 161 >

この作品をシェア

pagetop