森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
     ◇
 三日後、再び馬車で進んだが、今度は二時間くらいで降ろされた。王都の街並みは過ぎたものの、ダーミッシュ家に帰る道のりよりもうんと短い移動距離だ。
 宿に着き、束の間のティータイムをジークヴァルトと囲んだ。当たり前のように膝の上に乗せられる。ここで待っていた世話係も、何も見なかったかのように平静を保っていた。

(さすが王家が用意したひとたちね)

 ジークヴァルトからあーんが繰り出されようと、能面のように表情が動かない。そこにプロ根性を見て、リーゼロッテはいたく感心してしまった。

「どうした?」
「いえ、こんな行程で本当に目的地にたどり着けるのかと、心配になってしまって……」
「問題ない、すべて予定通りだ」

 相変わらず片手間に書類仕事を続けているジークヴァルトは、旅にはまるで興味なさげだ。自分ばかりが浮かれていたのだと思うと、なんだか気持ちもしゅんとしぼんでしまった。

「明日は船で移動するぞ」
「船で?」
「ああ、午前中いっぱいは川を昇る」
「川を……!」

 途端に小さな胸が膨らんだ。
 この国に海はないが、国土を左右に分けるように大河が長く流れている。人の移動だけでなく、物資の輸送手段としても大きな役割を果たしていた。

(異世界の船に乗れるんだわ……!)

 白い雲に眩しい太陽。空に舞う幾羽もの鳥たち。風に膨らむ帆が張って、船が速度を増していく。
 揺れる足元。ジークヴァルトに支えられる体。
 しぶきをあげて進む船体から、広がる大河の風景が、どこまでもどこまでも続いていく。

 リーゼロッテの頭の中では、船旅がすでに始まっていたのだった。







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