森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
静まり返った部屋の中、最後に声をかけることもできなかったことに気づく。そう思うとちょっと悲しい気分になってきた。
手首を掴まれ、腰を引き寄せられる。イグナーツがそうしていたように、ジークヴァルトはリーゼロッテの頭に顔をうずめてきた。
「……イグナーツ父様と、いつかまた会えるでしょうか」
「ああ、きっとな」
「はい……ヴァルト様」
回された大きな腕に安堵する。再会はうれしくもあったが、父とは言え、慣れない温もりはやはりどこか緊張を強いられた。
ほどなくして客船は次の船着き場で停泊した。乗船時と同様、抱きかかえられてタラップを渡る。周囲にイグナーツを探すも、その姿は結局見つけることはできなかった。
待っていた王家の馬車に乗り換える。進む道に合わせてか、今度はひと回り小ぶりの馬車だった。それでも豪奢な馬車には変わりなく、ここでも注目を集める神事の旅のご一行様だ。
乗り込んだ窓から、もう一度客船を見上げた。甲板の柵にもたれるイグナーツを小さく見つけて、リーゼロッテは思わず手を振った。それを受けて、イグナーツも軽く手を上げ返す。さらに大きく手を振ると、嘶きとともに馬車がゆっくりと進み出した。
父の姿が見えなくなっても、リーゼロッテは客船の形をどこまでも目に焼きつけた。いよいよ船影も見えなくなって、そこでようやく窓から顔を離す。
「少し眠るか?」
「いえ、疲れてはおりませんから」
膝の上、甘えるようにもたれかかる。ここ以外、自分の居場所はあり得ない。そう思わせてくれるほどに、ジークヴァルトの体温は心地よかった。
「間もなくバルテン領に入る。今日から数日、子爵家に滞在する予定だ」
「バルテン子爵家に……!?」
驚いて身を起こす。バルテン子爵家はヘッダの生まれた家だ。
東宮で過ごした日々が蘇る。早朝にマンボウが雄叫びを上げ、クリスティーナ王女が涼やかに笑っていた、あの閉ざされた高い塔での日々が。
「ヘッダ様……」
今彼女はどんな思いでいるのだろう。自分の身代わりとなって王女が死したとき、彼女も大きな怪我を負ったと聞いた。療養のためにバルテン領へと戻り、今では王女の護衛騎士だったアルベルトと、夫婦として過ごしているはずだ。
「大丈夫だ、オレもいる」
やさしく髪を梳く手に、涙が溢れそうになる。
「……はい、ヴァルト様」
実際にあふれ出た雫を隠すように、リーゼロッテはその胸に顔をうずめた。それ以上何も言わずに、ジークヴァルトはリーゼロッテの髪をなで続けた。
手首を掴まれ、腰を引き寄せられる。イグナーツがそうしていたように、ジークヴァルトはリーゼロッテの頭に顔をうずめてきた。
「……イグナーツ父様と、いつかまた会えるでしょうか」
「ああ、きっとな」
「はい……ヴァルト様」
回された大きな腕に安堵する。再会はうれしくもあったが、父とは言え、慣れない温もりはやはりどこか緊張を強いられた。
ほどなくして客船は次の船着き場で停泊した。乗船時と同様、抱きかかえられてタラップを渡る。周囲にイグナーツを探すも、その姿は結局見つけることはできなかった。
待っていた王家の馬車に乗り換える。進む道に合わせてか、今度はひと回り小ぶりの馬車だった。それでも豪奢な馬車には変わりなく、ここでも注目を集める神事の旅のご一行様だ。
乗り込んだ窓から、もう一度客船を見上げた。甲板の柵にもたれるイグナーツを小さく見つけて、リーゼロッテは思わず手を振った。それを受けて、イグナーツも軽く手を上げ返す。さらに大きく手を振ると、嘶きとともに馬車がゆっくりと進み出した。
父の姿が見えなくなっても、リーゼロッテは客船の形をどこまでも目に焼きつけた。いよいよ船影も見えなくなって、そこでようやく窓から顔を離す。
「少し眠るか?」
「いえ、疲れてはおりませんから」
膝の上、甘えるようにもたれかかる。ここ以外、自分の居場所はあり得ない。そう思わせてくれるほどに、ジークヴァルトの体温は心地よかった。
「間もなくバルテン領に入る。今日から数日、子爵家に滞在する予定だ」
「バルテン子爵家に……!?」
驚いて身を起こす。バルテン子爵家はヘッダの生まれた家だ。
東宮で過ごした日々が蘇る。早朝にマンボウが雄叫びを上げ、クリスティーナ王女が涼やかに笑っていた、あの閉ざされた高い塔での日々が。
「ヘッダ様……」
今彼女はどんな思いでいるのだろう。自分の身代わりとなって王女が死したとき、彼女も大きな怪我を負ったと聞いた。療養のためにバルテン領へと戻り、今では王女の護衛騎士だったアルベルトと、夫婦として過ごしているはずだ。
「大丈夫だ、オレもいる」
やさしく髪を梳く手に、涙が溢れそうになる。
「……はい、ヴァルト様」
実際にあふれ出た雫を隠すように、リーゼロッテはその胸に顔をうずめた。それ以上何も言わずに、ジークヴァルトはリーゼロッテの髪をなで続けた。