森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
(ふぅ、危ないところだったわ)
かなり遠くまできて、ようやく安堵の息を漏らす。ジークヴァルトは何も気づかなかった様子だ。リーゼロッテには刺激が強すぎて、いまだ落ち着かない鼓動を両の手のひらで確かめた。
「大丈夫か? 顔が赤い」
「は、はい、少し日に当たりすぎたのかも……」
言い終わる前に抱き上げられる。日陰を選びながら、ジークヴァルトは屋敷に向かって歩き出した。こうなれば自分で歩くと言っても聞きはしないだろう。仕方なく、力を抜いて身を預けた。
クリスティーナがしていたように、ジークヴァルトの首に手を回す。だがジークヴァルトの視線は、自分ではなく歩く先に向けられていた。
熱く見つめ合って、口づけを交わす姿が頭から離れない。愛し合うふたりに格の違いを見せつけられて、リーゼロッテの中に焦りに似た感情が生まれ落ちた。
(キスのひとつもしてくれないし……ヴァルト様はやっぱりそういうことに淡白なんだわ……)
公爵家に戻ってからというもの、恋人らしいイベントは何ひとつ起きていない。あーんと抱っこがルーチンワークのように、延々と繰り返されるだけだ。
ふたりきりの馬車でも、ジークヴァルトはずっと書類に目を通している。旅はおろかリーゼロッテすら、そっちのけにされているように思えてならなかった。
「つらいのか? すぐに戻る」
こんなふうに気遣ってくれるのに。気持ちを疑うつもりはないが、ジークヴァルトにもっともっと近づきたい。そんな欲が膨れ上がった。
「ジークヴァルト様……」
耳元に顔をうずめ、切なく名を呼んだ。抱きつく腕に、さらにぎゅっと力を籠める。
だがそうしても、建物に向かうジークヴァルトの足が、ただいたずらに早まっただけだった。
かなり遠くまできて、ようやく安堵の息を漏らす。ジークヴァルトは何も気づかなかった様子だ。リーゼロッテには刺激が強すぎて、いまだ落ち着かない鼓動を両の手のひらで確かめた。
「大丈夫か? 顔が赤い」
「は、はい、少し日に当たりすぎたのかも……」
言い終わる前に抱き上げられる。日陰を選びながら、ジークヴァルトは屋敷に向かって歩き出した。こうなれば自分で歩くと言っても聞きはしないだろう。仕方なく、力を抜いて身を預けた。
クリスティーナがしていたように、ジークヴァルトの首に手を回す。だがジークヴァルトの視線は、自分ではなく歩く先に向けられていた。
熱く見つめ合って、口づけを交わす姿が頭から離れない。愛し合うふたりに格の違いを見せつけられて、リーゼロッテの中に焦りに似た感情が生まれ落ちた。
(キスのひとつもしてくれないし……ヴァルト様はやっぱりそういうことに淡白なんだわ……)
公爵家に戻ってからというもの、恋人らしいイベントは何ひとつ起きていない。あーんと抱っこがルーチンワークのように、延々と繰り返されるだけだ。
ふたりきりの馬車でも、ジークヴァルトはずっと書類に目を通している。旅はおろかリーゼロッテすら、そっちのけにされているように思えてならなかった。
「つらいのか? すぐに戻る」
こんなふうに気遣ってくれるのに。気持ちを疑うつもりはないが、ジークヴァルトにもっともっと近づきたい。そんな欲が膨れ上がった。
「ジークヴァルト様……」
耳元に顔をうずめ、切なく名を呼んだ。抱きつく腕に、さらにぎゅっと力を籠める。
だがそうしても、建物に向かうジークヴァルトの足が、ただいたずらに早まっただけだった。