森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-

第7話 最果ての街

「いかがでしたかな? 我が領自慢のビンゲンを使った料理は」
「とても個性的なお味で、どのお料理も美味しくいただけましたわ」

 食後のくつろぎのサロンでリーゼロッテは、バルテン子爵にお手本のような淑女の笑みを返した。隣で座っているジークヴァルトは、無言のまま微妙な顔をしている。

「ビンゲンは真冬でも収穫できて、栄養価の高い香草です。よろしければ最上ランクのビンゲンを、いつでも公爵家に融通(ゆうずう)できますが」
「まぁ、素敵なお話ですわね。ですがフーゲンベルク家のことは、わたくしの一存では決められませんので……」

 ジークヴァルトを伺うと、さらに微妙な顔つきになった。恐らくビンゲンはもう口にしたくないのだろう。もしかしたら香りすら嫌になっているのかもしれない。

「……必要があれば、またこちらから連絡しよう」
「今は大事な神事に向かう最中でございましたね。ビンゲンは一年中収穫できます。バルテン家としましてはいつでも構いませんので、またのご連絡をお待ちしております」

 無表情でジークヴァルトは頷いた。うまく切り抜けたことに安堵しているようだ。リーゼロッテだけには、それがひしひしと伝わってくる。

「ビンゲンは美容にも良いのに、なかなか他領に広まらなくて困っておりますの。わたくしなど長年毎日食べ続けておりますでしょう? 見てくださいませ、この肌のはり(つや)を」
「まぁ本当ですわ」

 リーゼロッテが社交辞令の笑みを返すと、バルテン夫人は深いため息をついた。

「可愛い娘と息子が新たにできた今、もっとバルテン領を豊かにしたいのですけれど……」
「ビンゲンの良ささえ伝わればと、常々そう思っているのですよ」

 つられるようにバルテン子爵もため息をつく。

「アルベルトにもいい知恵はないかといつも言っているのですがね」
「すみません、義父上。わたしは騎士上がりで領地経営には(うと)いもので……」

 どこか遠い目でアルベルトは答えた。好きになれないものを売り込むのは、彼でなくとも難しそうだ。

「そんなもの、食糧難の際に高く売りつければいいじゃない」
「クリスティーナ……国中が大変なときに暴利をむさぼるなど、バルテン家の評判を落とすだけですよ。それにそれでは食糧難が来ない限り、バルテン家に益は出ませんし」
「だったらもっと良い案を考えなさいな。あなたが子爵家を継ぐのでしょう?」
「あの、わたくし思うのですが……」

 遠慮がちに言ったリーゼロッテに、みなの注目が集まった。

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