森の魔女と託宣の誓い -龍の託宣5-
「正直に申し上げまして、ビンゲンは好き嫌いの分かれるお味ですわ。ですがくせになってまた食べたくなると思う方もいらっしゃると思います。ビンゲンは香草ですし、メインの食材を引き立たせるのが本来の役目。主役を譲ってこそ、その存在を知らしめることができるのではないでしょうか?」
「ですがそれではビンゲンの消費は増えないのでは……」
「やりようによってはそうでもありませんわ。まずは平民に向けて美味しい料理のレシピと共に、ビンゲンを広めるというのはいかがでしょう?」
「レシピと共に?」
「ええ、ビンゲンはあくまで引き立て役で、お料理を数倍美味しくするレシピをいくつも用意するのですわ。使ううちにお味にも馴染んできますし、美容にいいことも体感できるでしょう。うまくいけば国中の食卓で、ビンゲンは欠かせない食材となるかもしれません」

 ハマった人間はビンゲンオンリーのサラダをリピートしそうだ。人を選ぶがクセになる。リーゼロッテはそんな気がしてならなかった。

「なるほど……いきなりビンゲン単体を押し付けるより、あくまで薬味として売り込むと言うことですね」
「バルテン家には東宮にいた料理人がいるようですし、いいレシピを考案してくれるはずですわ」
「ああ、確かに東宮の食事はいつでもどれも美味しかった……」

 アルベルトが遠い目をして言う。よほどビンゲンづくしの食生活がこたえているようだ。

「まずはバルテン家の食卓で研究してみてはいかがですか? あくまでも主役を引き立たせる、そんなビンゲン料理を」
「それはいい考えですね! 義父上、ぜひそうしましょう!」
「でもなぁ、アルベルト。ビンゲンが少ない料理は物足りないじゃないか。厨房にはもっと使うよう指示しているくらいなんだぞ」
「それでしたら別添えのソースなどを開発するのも手ですわね。ビンゲンを大好きになった人向けに、手軽に使える調味料として受け入れられるのではないでしょうか?」
「各自好みの分だけ振りかけるシステム! 素晴らしい! 義父上、これは前向きに検討すべきです!」

 人が変わったようにアルベルトが前のめりになった。必死さが伝わってきて、それほどビンゲン地獄から抜け出したいのだろう。

「随分と他力本願だこと」

 クリスティーナはアルベルトに向けて、見透かしたようにコロコロと笑い声を立てた。

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