義務だけの結婚だったのに社長の溺愛が熱すぎて息ができない
そんな時、スマホが震えた。

画面には「碧斗」の名前。

通話を繋ぐと、いつもの冷静な声が耳に届いた。

「今日、残業で遅くなる。」

「……残業?」

思わず聞き返す。

いつもなら“会合”だと言って取引先の誰かと夕食を共にするのに。

電話の向こうからは、キーボードを叩くような音が微かに聞こえてきた。

「うん。先に休んでていいよ。」

「……分かった。」

通話が切れたあと、私はちらりと時計を見た。針はもうすぐ午後五時を指している。

お腹が空いたままでは、仕事も進まないだろう。

私はキッチンに立ち、パック容器を取り出した。

白いご飯を詰め、焼き鮭、卵焼き、煮物──いつものお弁当と同じ。でも今日はなぜか手が少し震える。

(せめて、お弁当を食べている間だけでも、休ませてあげたい)

そんな願いを込めながら、私は慎重に蓋を閉めた。
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