義務だけの結婚だったのに社長の溺愛が熱すぎて息ができない
それからしばらく経ったある日。

胸の奥がふとざわついた。

生理が来ない──もしかしたら、赤ちゃんができたのかもしれない。

手のひらをそっと下腹部に当てると、鼓動のような温もりを感じた。

その夜、碧斗の帰りを待った。

いつものように「会合で遅くなった」と言いながら玄関をくぐる姿。

スーツの裾に夜の空気が纏わりついていた。

「ねえ、碧斗。」

声をかけると、彼はネクタイを緩めながらこちらを見た。

「なに?」

「……碧斗って、子ども好き?」

少しの沈黙のあと、彼は曖昧に笑った。

「うーん、どちらかといえば……苦手かな。」

その一言が胸に刺さった。

喜びかもしれない未来が、音もなく揺らいでいく。

唇を噛みしめながら、私は笑顔を作った。

「そう、なのね。」
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