義務だけの結婚だったのに社長の溺愛が熱すぎて息ができない
そして私は、碧斗と一緒に産婦人科を訪れた。

待合室で手をつなぐと、彼の掌が少し汗ばんでいた。

緊張しているのは、きっと私だけじゃない。

「間違いないでしょう。妊娠しています。」

医師の穏やかな声に、胸の奥で何かが弾けた。

碧斗と顔を見合わせ、思わず拍手をしてしまう。

モニターには、まだ米粒ほどの小さな命。

白い光の中で、確かに息づいている。

「これが……私たちの赤ちゃん……」

呟くと、碧斗は私の肩を抱いた。

「ありがとう、咲菜。」

その声は震えていて、気づけば彼の頬を一筋の涙が伝っていた。

人前も忘れて泣く碧斗の姿を見たのは初めてだった。

「俺、本当に嬉しい。自分の子どもができたなんて、夢みたいだ。」

その言葉が、胸の奥でやさしく響く。

私も涙が止まらなかった。

こんな日が来るなんて、思いもしなかった。

碧斗と私は、ようやく“夫婦”としての始まりを迎えたのだ。
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