見えない君は大切な人
「壊れてなんかない。遥ちゃんはちゃんと、自分の中で“向き合おう”としている。それだけで、すごいことだよ。怖いって、自然なこと
なんだ」
言葉の重なりが、少しだけ私の中の何かを、ほどいた気がした。
でも――
「……じゃあ先生、もし思い出したら、私は……元に戻れるんでしょうか」
「元に、というのは……?」
「彼を、蒼真くんを……また“見られるように”なるんでしょうか」
先生は少しだけ沈黙して、それから、ゆっくりと言った。
「遥ちゃんが、本当に心から“思い出す”ことができたとき。それが、はじめて答えになるんだと思うよ」
その言葉が、胸の奥の深い場所に、すとんと落ちていった――
病院を出ると、外はもう夕暮れだった。
街灯がまだ灯る前の、橙色の時間帯。
さっきまで話していたことが、夢みたいに遠く感じる。
でも、足取りはいつもより少しだけ軽かった。
記憶の扉は、まだ開かない。
だけど、その前に立つ勇気だけは――少しだけ、持てた気がする。
***