【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
もう仕事を続けられる気がしない……そんなことを考えながら、ライザは酒場で酷く酔っぱらっていた。
飲んでも飲んでも、頭の中から亡くなった患者の笑顔が消えない。
あの笑顔を奪ったのはライザなのだと、誰かがずっと耳元で囁いているような気がした。
すでに片手で数えられないほど何杯も飲んでいたが、もう一杯飲もうとした時、ライザのグラスをそっと押さえた人がいた。
「飲みすぎだ。女性が一人でこんなに酔っ払って、帰れなくなったらどうする」
険しい顔でそこに立っていたのは、イグナートだった。
美貌の騎士団長、だがその王子様然とした容姿に反して泥臭く戦うこともあり、部下からの信頼も厚い男。ライザが知っているのはそれくらいで、遠くに顔を見かけたことはあっても話したことはなかった。
貴族としては同じ伯爵位であっても、家族にいないものとして扱われているライザと、彼とでは全く違う。
酷く酔っ払っていたライザは、何もかもに恵まれたイグナートのことが無性に憎らしく感じた。
完全に八つ当たりなのだが、その時のライザは言葉を取り繕うことすらせずに、放っておいてと彼の手を跳ね除けたのだ。
もちろんそんなことで鍛えている彼がよろめくこともなく、イグナートは何故かライザの隣に腰を下ろした。
「アントノーヴァ伯爵令嬢が、どうしてこんなところに?」
「……私のことをご存知なんですか?」
思わず質問に質問で返すと、イグナートは微かに表情を緩めた。
「もちろん知っている。きみの作る回復薬は、とてもよく効くと騎士団でも有名だからな」
「ありがとうございます」
「それで、何故一人でこんなところに?」
「……」
初対面の人に何を話せばいいのか分からず黙っていたが、イグナートはライザが話すのをじっと待っている。
彼が頼んでくれた酔い覚ましの水に口をつけると、ライザはゆっくりと話し始めた。
「仕事に、自信をなくしてしまったんです。今日、とっても辛いことがあって……。それで、もう無理だと思って、ここでやけ酒をしているんです」
「どんな辛いことが?」
イグナートの低い声が、優しくライザに続きを促す。胸にわだかまる思いを吐き出したい気持ちもあり、ライザは話せる範囲で今日のことをぽつぽつと話した。
酔っ払って要領の得ない話だっただろうと思うが、イグナートは辛抱強く聞いてくれた。
彼はライザの言葉をさえぎったり否定することなく、ただ穏やかに耳を傾けてくれた。
気がつけばライザは小さな子供のように号泣しており、彼に頭を撫でて慰められていた。
「ライザがいつも真摯に仕事に向き合っていることは知ってる。きみに救われた者はたくさんいるんだ。俺も、その一人だよ」
「あなたも?」
しゃくりあげながら尋ねると、イグナートは深くうなずいた。
「あぁ。数年前、魔獣の討伐で多くの負傷者が出たことがあっただろう。あの時、俺はきみの治療を受けた。傷を塞ぐだけで精一杯だと言いながら、回復の助けになればと薬までくれた」
「覚えてる……ような、覚えてないような」
「きみは多くの人の治療に当たっていたから、覚えていなくても無理はない。だけど俺は、忘れたことなかったよ」
酔ってふわふわとした頭では、記憶をたどっても思い出せない。もしかしたら、落ち込むライザを励ますためのイグナートの作り話の可能性だってある。数年前といえば、ライザはまだまだ新人。騎士団長の治癒を担当するとは考えにくい。
それでも、優しく励ましてくれるイグナートの言葉にライザの心は上向いたし、また頑張ろうという気持ちにもなれた。
「私……まだまだだけど、頑張ろうと思います」
「うん。応援してるよ、ライザ」
微笑んで手を握りしめてくれたイグナートの顔を、ライザはぼんやりと見上げた。酔っ払いに構ってくれて、長々と話まで聞いてくれて、なんていい人なのだろう。
飲んでも飲んでも、頭の中から亡くなった患者の笑顔が消えない。
あの笑顔を奪ったのはライザなのだと、誰かがずっと耳元で囁いているような気がした。
すでに片手で数えられないほど何杯も飲んでいたが、もう一杯飲もうとした時、ライザのグラスをそっと押さえた人がいた。
「飲みすぎだ。女性が一人でこんなに酔っ払って、帰れなくなったらどうする」
険しい顔でそこに立っていたのは、イグナートだった。
美貌の騎士団長、だがその王子様然とした容姿に反して泥臭く戦うこともあり、部下からの信頼も厚い男。ライザが知っているのはそれくらいで、遠くに顔を見かけたことはあっても話したことはなかった。
貴族としては同じ伯爵位であっても、家族にいないものとして扱われているライザと、彼とでは全く違う。
酷く酔っ払っていたライザは、何もかもに恵まれたイグナートのことが無性に憎らしく感じた。
完全に八つ当たりなのだが、その時のライザは言葉を取り繕うことすらせずに、放っておいてと彼の手を跳ね除けたのだ。
もちろんそんなことで鍛えている彼がよろめくこともなく、イグナートは何故かライザの隣に腰を下ろした。
「アントノーヴァ伯爵令嬢が、どうしてこんなところに?」
「……私のことをご存知なんですか?」
思わず質問に質問で返すと、イグナートは微かに表情を緩めた。
「もちろん知っている。きみの作る回復薬は、とてもよく効くと騎士団でも有名だからな」
「ありがとうございます」
「それで、何故一人でこんなところに?」
「……」
初対面の人に何を話せばいいのか分からず黙っていたが、イグナートはライザが話すのをじっと待っている。
彼が頼んでくれた酔い覚ましの水に口をつけると、ライザはゆっくりと話し始めた。
「仕事に、自信をなくしてしまったんです。今日、とっても辛いことがあって……。それで、もう無理だと思って、ここでやけ酒をしているんです」
「どんな辛いことが?」
イグナートの低い声が、優しくライザに続きを促す。胸にわだかまる思いを吐き出したい気持ちもあり、ライザは話せる範囲で今日のことをぽつぽつと話した。
酔っ払って要領の得ない話だっただろうと思うが、イグナートは辛抱強く聞いてくれた。
彼はライザの言葉をさえぎったり否定することなく、ただ穏やかに耳を傾けてくれた。
気がつけばライザは小さな子供のように号泣しており、彼に頭を撫でて慰められていた。
「ライザがいつも真摯に仕事に向き合っていることは知ってる。きみに救われた者はたくさんいるんだ。俺も、その一人だよ」
「あなたも?」
しゃくりあげながら尋ねると、イグナートは深くうなずいた。
「あぁ。数年前、魔獣の討伐で多くの負傷者が出たことがあっただろう。あの時、俺はきみの治療を受けた。傷を塞ぐだけで精一杯だと言いながら、回復の助けになればと薬までくれた」
「覚えてる……ような、覚えてないような」
「きみは多くの人の治療に当たっていたから、覚えていなくても無理はない。だけど俺は、忘れたことなかったよ」
酔ってふわふわとした頭では、記憶をたどっても思い出せない。もしかしたら、落ち込むライザを励ますためのイグナートの作り話の可能性だってある。数年前といえば、ライザはまだまだ新人。騎士団長の治癒を担当するとは考えにくい。
それでも、優しく励ましてくれるイグナートの言葉にライザの心は上向いたし、また頑張ろうという気持ちにもなれた。
「私……まだまだだけど、頑張ろうと思います」
「うん。応援してるよ、ライザ」
微笑んで手を握りしめてくれたイグナートの顔を、ライザはぼんやりと見上げた。酔っ払いに構ってくれて、長々と話まで聞いてくれて、なんていい人なのだろう。