【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
「どうぞ、中に入って」

 ライザが促すと、イグナートはうなずいて家の中に入った。大柄なイグナートがいるだけで、部屋の中が随分と狭くなったように見える。

 ダイニングの椅子に座るよう声をかけて、ライザはお湯を沸かす。薄いレースのカーテンをかけた窓の外からは、ジョレスと双子の声が聞こえてくる。もしもライザが大声をあげればすぐに駆けつけられるようにと、庭で過ごすことにしたのだろう。

 コーヒーを淹れている間、イグナートは黙って部屋の中を見回していた。壁に飾られた、アーラとパーヴェルの描いた絵を見つめる視線が柔らかく見えるのは、気のせいだろうか。

「お待たせ」

 ことんとテーブルにカップを置くと、イグナートは礼を言ってすぐに口をつける。一口飲んで、彼は嬉しそうに目を細めた。

「覚えててくれたんだな」

「え?」

「砂糖、三つ入れてくれただろう」

「あ……」

 無意識のうちにかつての行動を思い出していたのか、イグナートのコーヒーには確かに砂糖を三つ入れた。ライザはブラックでしか飲まないから、普段は砂糖を使うことすらないのに。

「こ、子供が甘いお茶を飲むから、いつもの流れでそうしただけよ」

 慌てて取り繕ってみるが、イグナートはそうかと微笑んでうなずくだけだ。

 ライザもイグナートの向かいに座り、心を落ち着かせるためコーヒーに口をつける。そして、イグナートの顔をじっと見た。

「どうして、ここが分かったの?」

「この前会った時、荷物が多かったから宿に泊まったはずだと思って。別件の捜査を理由に、あの近辺の宿を片っ端から訪ねて、宿泊者リストを提出させた」

「職権濫用……!」

 とんでもないことをさらりと言うイグナートに、ライザは思わず身体をのけぞらせた。

「必死だったからな。それに、別件で探していたやつはちゃんと見つけたから問題ない」

 どうだと言わんばかりに胸を張ったイグナートは、それからとつぶやいて口の端を上げた。

「偽名を使うなら、もっと本名とかけ離れたものにすべきだったな。『ライザ・ノヴァ』なんて、一目見た瞬間にライザのことに違いないと思った」

「う……、だって全然違う名前にしたら、呼ばれても気づかないと思ったんだもの」

 ライザは苦い顔をする。こんなに早く見つかってしまうなら、もっと別の偽名にすればよかったと思うが、今更だ。

 そんなライザを見て笑いながら、イグナートはスッと姿勢を正した。話が本題に入ることを察知して、ライザも背筋を伸ばす。
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