【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
「どうか、これからもずっとそばにいてほしい。ライザのことが好きなんだ」

「ありがとう、イグナート。私もイグナートのことが好き。ずっと、一緒にいてね」

 笑って答えると、心から嬉しそうな表情を浮かべたイグナートがライザの手にそっと唇を押し当てた。そして、指輪をゆっくりと指に滑らせる。

 しっかりと指に馴染んだ指輪を確認して、ライザは込み上げるあたたかな気持ちのまま微笑んだ。

「すごく、幸せ」

「うん、俺も」

 店員がまだ戻ってこないのを確認して、二人は一度だけ軽いキスを交わした。



 せっかくの二人きりでの外出なので、すぐに帰宅するのがもったいなくて、カフェに寄って帰ることになった。子供たちにはカフェで売っている焼き菓子をお土産に購入しようと話していると、少し離れたテーブルに座る男女にふと視線が吸い寄せられた。

 和やかに談笑する人々が多い中で、その二人だけ険悪な空気だ。

 女性はライザに背を向けているので顔は見えないが、まるで夜会の時のような派手なドレスを身に纏っている。女性と向かい合って座る中年の男性はうつむいてカップに口をつけていたが、顔を上げて乱暴な仕草でカップをテーブルに置いた。

「……そんなこと、分かってる! 何度も言わせるな」

 がしゃんと耳障りな音が響き、周囲の客も眉を顰めてそのテーブルに注目する。ライザは、苛立った様子で腕を組む男性の顔にくぎづけになっていた。

 記憶の中の姿より、皺も白髪も増えている。だけど実の父親を見間違えるはずがない。

 そこにいたのはライザの父、アントノーヴァ伯爵だった。
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