【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
両親にライザの結婚を一方的に宣言して以来、アントノーヴァ家からは面会の要請が幾度となく来ていた。全て断ってしまいたいが、最初で最後という約束のもと、今度はリガロフ伯爵家にて話しあいの場を設けることになった。
今日はその約束の日で、ライザは朝から食事も喉を通らないほどに緊張していた。両親が訪ねてくるのは夕方だと聞いているが、すでに鼓動は落ち着かないほど速くなっていて、ため息ばかりついている。
「ライザ、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。きみはもう、アントノーヴァ家とはなんの関係もないんだから」
「うん……」
心配そうに肩を抱いてくれるイグナートに笑いかけようとしても、頬が引きつる。子供たちの前ではなるべく笑顔でいるよう意識していたが、今は別室で遊んでいるからここにはいない。そうなると、つい表情がこわばってしまうのだ。
安心させるようにこめかみにキスを落としたイグナートは、ライザの手をぎゅっと握りしめた。
「手が冷えてるな。天気もいいし、庭であたたかいお茶でも飲まないか」
「そうね、少しは気が紛れるかもしれないし」
「ちょうど、ライザに会いたいと訪ねてきた人もいるんだ。きっと顔を見れば驚いて、緊張だってどこかに行ってしまうに違いない」
「会いたい人?」
誰だろうと首をかしげるが、彼は行けば分かると悪戯っぽく笑って、ライザの手を引いた。
連れて行かれた庭の四阿で待っていた人物を見て、ライザは目を見開いた。
白いドレスを身に纏った銀髪の女性。そこにいたのは、聖女ヴェーラだった。
「え……ヴェーラ様?」
「お久しぶりね、ライザ。どうしても会いたくて、無理を言ってお願いしたの」
「な、驚いて緊張どころじゃなくなっただろう?」
悪戯が成功したかのような楽しそうな声で、イグナートが耳元で笑う。確かにびっくりしすぎて、憂鬱な気持ちはどこかへ行ってしまった。
どうやらヴェーラに会わせることが目的だったようで、案内だけするとイグナートは部屋に戻ってしまった。侍女もお茶の準備を整えたら下がっていき、四阿には二人だけになる。
テーブルに向かいあって座ると、ヴェーラがあらたまった様子でライザを見た。
「驚かせてごめんなさいね。ライザがイグナートと結婚するって聞いたから、お祝いを言いたくって。あとで子供たちにも会わせてね」
「ありがとうございます。子供たちにもぜひ会っていただけると嬉しいです。ヴェーラ様もご婚約されたと聞きました。おめでとうございます」
「えぇ、そうなの。とっても優しくて、わたくしを大切にしてくれる人よ」
幸せそうに微笑んだあと、ヴェーラは少し照れくさそうに咳払いをして姿勢を正した。そして真面目な顔になる。
「あなたたちには、わたくしの我儘のせいで迷惑をかけてしまったわね。本当に申し訳ないことをしたわ。わたくしがイグナートを連れて行くと言い出さなければ、あなたたちはもっと早く幸せになれていたのに」
「そんな……もう、終わった話ですから。それに、ヴェーラ様が指名しなくても彼が旅に同行する可能性は充分ありました。私たちの間に色々あったことはヴェーラ様もご存知でしょうが、それはただ、お互いの会話が不足していたというだけの話なので……」
「それでも、恋人たちを何年も会えない状態にしてしまったんだもの。本当にごめんなさいね」
申し訳なさそうな顔をするヴェーラに、ライザは慌てて首を横に振った。
確かに浄化の旅がなければイグナートと離れ離れになることはなかったかもしれないが、その場合は今も、身体だけだと誤解した関係がずるずると続いていたかもしれない。避妊薬を飲み忘れたあの夜がなければ、子供たちを授かることだってなかった。
「私は、今が一番幸せですから」
「そうね、ライザの表情がとても柔らかくなったもの。やっぱり、イグナートに愛されているからかしら」
顔をのぞき込まれて、ライザは思わず視線を逸らしてしまう。愛されている実感はもちろんあるが、それを他人に指摘されるのは照れるものだ。
「さっきライザと一緒にいるイグナートを見て、わたくし驚いたのよ。あの人があんなにも優しい顔ができるなんて、知らなかったわ」
「優しい顔、ですか……?」
「えぇ。愛おしいものを見る表情って、ああいうことをいうのね。わたくしの前では、笑顔ひとつ見せないのよ。イグナートが、本命にしか優しくしないタイプだということがよーく分かったわ」
呆れたようにため息をついて、ヴェーラは紅茶を一口飲む。
「旅に出てからというもの、イグナートはわたくしと余計な口をほとんどきかなかったの。騎士としては優秀だけど、なんて気の利かない男かしらと驚いたくらい。でも時々、王都で待っている恋人がいるんだって話をしてくれて、そのために少しでも早く旅を終わらせたいんだって言っていたわ。その時はそれがライザのことだなんて思いもしなかったけど」
「そう、なんですか」
まさかイグナートが自分の話をしていたとは知らず、ライザは驚いて目を瞬く。旅が通常より随分早く終了したのは、ライザのためだったのだろうか。自惚れかもしれないと思いつつも、じわじわと心の中に照れくさい気持ちが広がっていく。
「イグナートの顔は気に入っていたけれど、所詮それだけよ。わたくしは、わたくしだけを大切にしてくれる人でなければ嫌なの。イグナートの頭の中には、ライザのことしかないもの。だから、わたくしとイグナートの間には、何もなかったのよ」
ヴェーラは、念を押すようにそう言う。ライザがヴェーラとイグナートのことを誤解していたので、それをあらためて訂正してくれたのだろう。
「えぇ、分かってます」
ライザがうなずくと、ヴェーラはホッとしたように笑った。
今日はその約束の日で、ライザは朝から食事も喉を通らないほどに緊張していた。両親が訪ねてくるのは夕方だと聞いているが、すでに鼓動は落ち着かないほど速くなっていて、ため息ばかりついている。
「ライザ、そんなに緊張しなくても大丈夫だ。きみはもう、アントノーヴァ家とはなんの関係もないんだから」
「うん……」
心配そうに肩を抱いてくれるイグナートに笑いかけようとしても、頬が引きつる。子供たちの前ではなるべく笑顔でいるよう意識していたが、今は別室で遊んでいるからここにはいない。そうなると、つい表情がこわばってしまうのだ。
安心させるようにこめかみにキスを落としたイグナートは、ライザの手をぎゅっと握りしめた。
「手が冷えてるな。天気もいいし、庭であたたかいお茶でも飲まないか」
「そうね、少しは気が紛れるかもしれないし」
「ちょうど、ライザに会いたいと訪ねてきた人もいるんだ。きっと顔を見れば驚いて、緊張だってどこかに行ってしまうに違いない」
「会いたい人?」
誰だろうと首をかしげるが、彼は行けば分かると悪戯っぽく笑って、ライザの手を引いた。
連れて行かれた庭の四阿で待っていた人物を見て、ライザは目を見開いた。
白いドレスを身に纏った銀髪の女性。そこにいたのは、聖女ヴェーラだった。
「え……ヴェーラ様?」
「お久しぶりね、ライザ。どうしても会いたくて、無理を言ってお願いしたの」
「な、驚いて緊張どころじゃなくなっただろう?」
悪戯が成功したかのような楽しそうな声で、イグナートが耳元で笑う。確かにびっくりしすぎて、憂鬱な気持ちはどこかへ行ってしまった。
どうやらヴェーラに会わせることが目的だったようで、案内だけするとイグナートは部屋に戻ってしまった。侍女もお茶の準備を整えたら下がっていき、四阿には二人だけになる。
テーブルに向かいあって座ると、ヴェーラがあらたまった様子でライザを見た。
「驚かせてごめんなさいね。ライザがイグナートと結婚するって聞いたから、お祝いを言いたくって。あとで子供たちにも会わせてね」
「ありがとうございます。子供たちにもぜひ会っていただけると嬉しいです。ヴェーラ様もご婚約されたと聞きました。おめでとうございます」
「えぇ、そうなの。とっても優しくて、わたくしを大切にしてくれる人よ」
幸せそうに微笑んだあと、ヴェーラは少し照れくさそうに咳払いをして姿勢を正した。そして真面目な顔になる。
「あなたたちには、わたくしの我儘のせいで迷惑をかけてしまったわね。本当に申し訳ないことをしたわ。わたくしがイグナートを連れて行くと言い出さなければ、あなたたちはもっと早く幸せになれていたのに」
「そんな……もう、終わった話ですから。それに、ヴェーラ様が指名しなくても彼が旅に同行する可能性は充分ありました。私たちの間に色々あったことはヴェーラ様もご存知でしょうが、それはただ、お互いの会話が不足していたというだけの話なので……」
「それでも、恋人たちを何年も会えない状態にしてしまったんだもの。本当にごめんなさいね」
申し訳なさそうな顔をするヴェーラに、ライザは慌てて首を横に振った。
確かに浄化の旅がなければイグナートと離れ離れになることはなかったかもしれないが、その場合は今も、身体だけだと誤解した関係がずるずると続いていたかもしれない。避妊薬を飲み忘れたあの夜がなければ、子供たちを授かることだってなかった。
「私は、今が一番幸せですから」
「そうね、ライザの表情がとても柔らかくなったもの。やっぱり、イグナートに愛されているからかしら」
顔をのぞき込まれて、ライザは思わず視線を逸らしてしまう。愛されている実感はもちろんあるが、それを他人に指摘されるのは照れるものだ。
「さっきライザと一緒にいるイグナートを見て、わたくし驚いたのよ。あの人があんなにも優しい顔ができるなんて、知らなかったわ」
「優しい顔、ですか……?」
「えぇ。愛おしいものを見る表情って、ああいうことをいうのね。わたくしの前では、笑顔ひとつ見せないのよ。イグナートが、本命にしか優しくしないタイプだということがよーく分かったわ」
呆れたようにため息をついて、ヴェーラは紅茶を一口飲む。
「旅に出てからというもの、イグナートはわたくしと余計な口をほとんどきかなかったの。騎士としては優秀だけど、なんて気の利かない男かしらと驚いたくらい。でも時々、王都で待っている恋人がいるんだって話をしてくれて、そのために少しでも早く旅を終わらせたいんだって言っていたわ。その時はそれがライザのことだなんて思いもしなかったけど」
「そう、なんですか」
まさかイグナートが自分の話をしていたとは知らず、ライザは驚いて目を瞬く。旅が通常より随分早く終了したのは、ライザのためだったのだろうか。自惚れかもしれないと思いつつも、じわじわと心の中に照れくさい気持ちが広がっていく。
「イグナートの顔は気に入っていたけれど、所詮それだけよ。わたくしは、わたくしだけを大切にしてくれる人でなければ嫌なの。イグナートの頭の中には、ライザのことしかないもの。だから、わたくしとイグナートの間には、何もなかったのよ」
ヴェーラは、念を押すようにそう言う。ライザがヴェーラとイグナートのことを誤解していたので、それをあらためて訂正してくれたのだろう。
「えぇ、分かってます」
ライザがうなずくと、ヴェーラはホッとしたように笑った。