【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
「わ、私は……家には帰らないし、コヴァレー男爵と結婚もしないわ。私が結婚したいと思う人は、この人――イグナートしかいない」
少し声が震えてしまったが、なんとか自分の気持ちを口に出すことができた。安心させるように、イグナートがそっとライザの手を握ってくれた。
だがライザの言葉に両親は目を吊り上げた。
「そんなこと、許さんぞ。おまえは、コヴァレー男爵と結婚するんだ。もう、先方にも話をつけてある。男爵は傷が治りにくい体質らしくてな、専属の癒し手を探しているんだ。おまえ以外に適任など、いないだろう。コヴァレー家と縁を結べることの幸運を、おまえも理解すべきだ」
「そうよ。癒し手なら、人の役に立つのは当然でしょう。あなたの力を役立てられるんだから、断るはずないわよね? コヴァレー男爵と結婚を望むたくさんのご令嬢の中から、ライザが選ばれたの。女は望まれて嫁ぐのが一番幸せなのよ」
必死に説得してくる言葉も、ライザの胸には響かない。色々言っているが、結局ライザのことは道具としか見ていないのだと、冷え冷えとした心で思うだけ。
「コヴァレー男爵が求めているのは、癒しの力だけでしょう。私はそんな結婚、絶対にお断りです!」
「なんですって……?」
今までろくに反抗などしてこなかったライザが、強い口調で言い切ったことに、義母は苛立ちの表情を浮かべる。
「いいから黙って嫁ぎなさい! あんたみたいな役立たずを高値で引き取ってくれるって言うんだから、感謝すべきなのよ!」
「高値で?」
イグナートが低い声でつぶやくと、義母はハッとしたように両手で口を塞いだ。
それを見て、イグナートは冷たい笑みを浮かべる。
「なるほど。予想はしていたが、ライザを差し出す見返りに、金銭を受け取っているのでしょうね。その顔を見ると、どうやらすでにその金に手をつけてしまっているようだが」
「そ、……れは」
青い顔になる両親を見て、ライザはため息をついた。アナスタシアから聞いた話そのままが事実だったなんて、もはや笑うことすらできない。
「私の知らないところで勝手に話を進めておいて、お金に手をつけてしまったから早く結婚しなさいなんて。今からでもコヴァレー男爵に謝罪してお金を返済してください。私は、絶対に男爵と結婚なんてしませんから」
「うるさい! おまえは黙って言うことを聞いていればいいんだ! おまえがこの縁談を無駄にしたら、俺たちがどんな目に遭うのか分かってるのか? おまえは家族を見捨てるというのか」
「そうよ。お金だって、家のために使っただけなんだから。あんたも少しは家族の役に立ってちょうだい」
「家族、だなんて」
この場でこれほど空しく響く言葉もないだろう。ライザは乾いた笑みを浮かべた。
「私の家族は、イグナートと子供たちだけ。――そう、言い忘れていたけれど、私もう子供がいるの。だから、絶対に別の人と結婚なんてしないわ」
「子供、だって……?」
ぽかんとした表情をしていた父親は、みるみるうちに顔を真っ赤にする。
「ライザおまえ……、そんな娘に育てた覚えはないぞ!」
「大丈夫よ、黙っていれば分からないわ。ライザさえきちんとコヴァレー家に嫁入りしてくれたら、それで全てがうまくいくんだから」
口々にそんな勝手なことを言うのを聞いて、イグナートが深いため息をついた。
「婚約していたとはいえ、結婚前にライザさんが身籠ることになった件については、全てこちらの責任です。それに関しては、どんな叱責も受け入れるつもりです。だが、子供の存在を知った上でも勝手な結婚話を進めるのは、問題があるでしょう」
「ふん、人の大事な娘を勝手に傷物にしておいて、こちらも簡単には引き下がれん。リガロフ伯爵家には慰謝料を請求させてもらおう。すでに決まっている結婚が破棄になったことによる慰謝料も上乗せしなければならないな」
コヴァレー男爵へのライザの嫁入りが難しいと分かったので、今度はイグナートから慰謝料をせしめるという方向に転換したらしい。義母もにやにやと笑いながら、それに同意している。
いやらしい笑みを浮かべてそんなことを言う父親を見て、どこまでも金のことしか考えていないのだなとげんなりした気持ちになる。誰が大事な娘だと言いたくなるのを、ライザは唇を噛みしめて堪えていた。
その時、それまで黙っていたリガロフ伯爵が口を開いた。
少し声が震えてしまったが、なんとか自分の気持ちを口に出すことができた。安心させるように、イグナートがそっとライザの手を握ってくれた。
だがライザの言葉に両親は目を吊り上げた。
「そんなこと、許さんぞ。おまえは、コヴァレー男爵と結婚するんだ。もう、先方にも話をつけてある。男爵は傷が治りにくい体質らしくてな、専属の癒し手を探しているんだ。おまえ以外に適任など、いないだろう。コヴァレー家と縁を結べることの幸運を、おまえも理解すべきだ」
「そうよ。癒し手なら、人の役に立つのは当然でしょう。あなたの力を役立てられるんだから、断るはずないわよね? コヴァレー男爵と結婚を望むたくさんのご令嬢の中から、ライザが選ばれたの。女は望まれて嫁ぐのが一番幸せなのよ」
必死に説得してくる言葉も、ライザの胸には響かない。色々言っているが、結局ライザのことは道具としか見ていないのだと、冷え冷えとした心で思うだけ。
「コヴァレー男爵が求めているのは、癒しの力だけでしょう。私はそんな結婚、絶対にお断りです!」
「なんですって……?」
今までろくに反抗などしてこなかったライザが、強い口調で言い切ったことに、義母は苛立ちの表情を浮かべる。
「いいから黙って嫁ぎなさい! あんたみたいな役立たずを高値で引き取ってくれるって言うんだから、感謝すべきなのよ!」
「高値で?」
イグナートが低い声でつぶやくと、義母はハッとしたように両手で口を塞いだ。
それを見て、イグナートは冷たい笑みを浮かべる。
「なるほど。予想はしていたが、ライザを差し出す見返りに、金銭を受け取っているのでしょうね。その顔を見ると、どうやらすでにその金に手をつけてしまっているようだが」
「そ、……れは」
青い顔になる両親を見て、ライザはため息をついた。アナスタシアから聞いた話そのままが事実だったなんて、もはや笑うことすらできない。
「私の知らないところで勝手に話を進めておいて、お金に手をつけてしまったから早く結婚しなさいなんて。今からでもコヴァレー男爵に謝罪してお金を返済してください。私は、絶対に男爵と結婚なんてしませんから」
「うるさい! おまえは黙って言うことを聞いていればいいんだ! おまえがこの縁談を無駄にしたら、俺たちがどんな目に遭うのか分かってるのか? おまえは家族を見捨てるというのか」
「そうよ。お金だって、家のために使っただけなんだから。あんたも少しは家族の役に立ってちょうだい」
「家族、だなんて」
この場でこれほど空しく響く言葉もないだろう。ライザは乾いた笑みを浮かべた。
「私の家族は、イグナートと子供たちだけ。――そう、言い忘れていたけれど、私もう子供がいるの。だから、絶対に別の人と結婚なんてしないわ」
「子供、だって……?」
ぽかんとした表情をしていた父親は、みるみるうちに顔を真っ赤にする。
「ライザおまえ……、そんな娘に育てた覚えはないぞ!」
「大丈夫よ、黙っていれば分からないわ。ライザさえきちんとコヴァレー家に嫁入りしてくれたら、それで全てがうまくいくんだから」
口々にそんな勝手なことを言うのを聞いて、イグナートが深いため息をついた。
「婚約していたとはいえ、結婚前にライザさんが身籠ることになった件については、全てこちらの責任です。それに関しては、どんな叱責も受け入れるつもりです。だが、子供の存在を知った上でも勝手な結婚話を進めるのは、問題があるでしょう」
「ふん、人の大事な娘を勝手に傷物にしておいて、こちらも簡単には引き下がれん。リガロフ伯爵家には慰謝料を請求させてもらおう。すでに決まっている結婚が破棄になったことによる慰謝料も上乗せしなければならないな」
コヴァレー男爵へのライザの嫁入りが難しいと分かったので、今度はイグナートから慰謝料をせしめるという方向に転換したらしい。義母もにやにやと笑いながら、それに同意している。
いやらしい笑みを浮かべてそんなことを言う父親を見て、どこまでも金のことしか考えていないのだなとげんなりした気持ちになる。誰が大事な娘だと言いたくなるのを、ライザは唇を噛みしめて堪えていた。
その時、それまで黙っていたリガロフ伯爵が口を開いた。