私は‪✕‬‪✕‬を知らないⅡ
「たく、俺の傍に居ときゃ良かったのに」


呆れたみたいに吐き出された声。


なのに、その腕は不思議なくらい優しかった。


「・・・・・」


暴れていたましろちゃんはもう動かない。


さっきまであんなに苦しそうだった呼吸も、今は静かになっていた。


「・・・おい」


低い声を出したのは朔夜くんだった。


鋭い目で男の人を睨んでいる。


「なんでいるの」


だけどその問いを投げかけたのは意外な人物、そう、キョウさんだ。


「色欲の回収を頼んだはずだけど」


「ちゃんと仕事はこなしてから来たっつーの」


悪びれた様子はない。


へら、と笑う。


その軽い態度に、逆に背筋が冷えた。


今思えばあの状況からこの瞬間まで、なんでこの人は普通で居られるの?


皆もその事には既に気付いていたようでより一層警戒心を強める。


「んじゃ帰りますかー」


この空気すら意に介さずこの人は、そのまま当たり前のようにましろちゃんを連れて行こうとする。


「待ってください!ましろちゃんを連れていかないでください!」


このままにしちゃダメだ。


じゃなきゃもうましろちゃんには二度と会えなくなる。


そんな気がするから。


眠るましろちゃんの前髪を避けながら、この人は面倒臭そうに続けた。


「止めることもできなかったのにー?」
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