俺様CEOは激愛の手を緩めない~人生どん底のはずが執着愛で囲い娶られました~
入れなかった居酒屋の斜め向かいに別の店のドアがある。バーのようだが立て看板にピザやパスタの写真があり、おつまみ以上の食事もできるようだ。

できれば他の客や店員に会話を聞かれたくないので賑やかな店の方がいいけれど、空いている居酒屋をあちこち探して歩く気にはなれずバーのドアを開けた。

中に入ると十席ほどのL字のカウンターとテーブル席が八つあった。静かに飲んでいる数人の客の姿しかなく、ジャズピアノのBGMと青や紫の間接照明がムーディーな雰囲気を作っていた。

(バーが混んでくるのはもう少し遅い時間か。こんなに空いてたら会話が聞こえてしまいそうだし、雰囲気がデート向けの店だよね)

ミスチョイスだったと思ったが、「いらっしゃいませ」と黒服の店員に声をかけられてしまい戻れない。

「お好きな席へどうぞ」

一番奥の角にある四人掛けのテーブル席を選んで、勇大と向かいあった。

「ご注文を伺います」

「俺はグラスビールで。梨乃は?」

「オレンジジュース」

ソフトドリンクを選んだことで勇大の眉尻が下がった。警戒されていると思ったのだろう。

交際していた時はよくふたりで飲みに行ったが、あの楽しかった日々は二度と戻らない。

フードメニューはチーズの盛り合わせだけを注文し、すぐにドリンクと一緒に運ばれてきた。

「乾杯」

グラスを合わせてあげたけれど、笑顔を作る気はない。

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