俺様CEOは激愛の手を緩めない~人生どん底のはずが執着愛で囲い娶られました~
ふたりきりにされて、ますます動悸が激しくなる。
(自社のCEOを警戒しているわけじゃないけど)
いや、警戒しているのかもしれない。初対面の女性に突然キスしてくるような男性なのだから。
動こうとしない梨乃に、黒見が声を低くした。
「聞こえなかったのか? こっちへ来い」
「ここでお話を伺います」
なぜドアから離れたくないのかは、言わなくても伝わったようだ。
「また俺に唇を奪われると思っているのか?」
形のいい唇の端が面白がっているようにつり上がった。
冗談で言えるほどなので、どうやら彼はあのキスを大したことだと思っていないようだ。
(それなら私、どうして呼び出されたの?)
動揺していると、黒見が静かに椅子を立った。
外は冬曇りのため室内がやや薄暗い。スリーピースの濃いグレーのスーツが黒にも見え、彼をダークでミステリアスな雰囲気に染めていた。
ゆっくりとこちらに向かって来られ、警戒心は高まるのに動けない。
まるで蛇に睨まれた蛙、いや彼のイメージにはライオンの方が似合いそうだ。
(逃げられない……)
目の前で立ち止まった彼が頭ひとつ分上から見下ろしてくる。
梨乃の顔の横に右腕が突き立てられて、二度目のキスを危ぶんだ。
ゾクッとするほど美麗な顔で見つめられると、応じなければいけないような気になって焦る。