幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜

「まったくほんとに馬鹿なんだから！」


　宗介の家のリビング。


　学校から帰って、片付いたキッチンを背にしかめっ面で仁王立ちしている宗介の前、恋はラグに斜めに座っていた。



「人の見てる所で狐になるなって言ってるだろ！恋。何度言ったら分かるわけ？」

「つい……」

「ついもなにもない。どんだけ心配すると思ってるんだよ、ほんとにもう！。人の気も知らないで！。」

「……」



　恋には秘密がある。

　それは実はあやかし狐の血をひいていて、いつでも狐の姿にすぐ変身できるという秘密だった。

　母方がこの地方の有名なあやかし狐の血を引いていて、変身する恋は黄金色のきれいな子狐になる。

　狐の姿だと何倍も早く動けるので、恋はしょっちゅう子狐の姿で近所をうろうろしているのだった。

　隣に住む幼なじみの宗介はそういう恋が心配でたまらない。


　恋がひょいとテーブルの皿の煎餅に手を伸ばすと、宗介がその手を上からパチンと叩いた。



「おやつは抜き。聞いてるの？。誰かが知ったらどうすると思ってるんだよ。いっつもいっつもぼんやりして聞いてるんだか聞いてないんだか……。今だって、聞いてるフリして全っ然分かってないんだから！。」

「分かってるよ」

「分かってない。何にも。何回も言うけど、お前はあやかしなの。人に知られちゃいけないの。こんだけ言ってるのに、どうしてちゃんと聞けないんだよ？。」

「……」



　恋はテーブルのコップを取って、お茶をずず、と一口飲み出した。

　片付いた部屋の片隅には狐用の空のケージが置いてある。

　恋が今度はと近くにあった雑誌に手を伸ばすと、宗介は素早くその雑誌を取り上げて、ついでに丸めて恋の頭をスパンと打った。


「馬鹿なんだから。学校なんかで変身して……」


　宗介の説教はガミガミと止まらない。

　ほう、とため息をついた恋を見下ろした宗介は、まだ腹を立てている口調で苛立ちを隠さないまま恋を睨んで宣言をした。



「まったくもう。どれだけ心配させれば気が済むんだか。今度やったらげんこ。痛い思いするまで分からないなんて馬鹿だよ。良い？。分かった？」

「……」

「分・か・っ・た・の」

「ハイ」



　返事をした恋はまた手を伸ばすと、宗介が戻した雑誌のページをそっと撫でた。