幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜


 お面屋とピンバッジの屋台を通り過ぎて、チョコバナナ屋とたこ焼き屋の前を通った。

 旗の立っているりんご飴屋の前で、恋は向こうから来た人にぶつかってしまった。

 立ち往生していた恋に、宗介はすぐに気付いて通りを戻ってきた。

 宗介は軽く恋の右手を掴むと、何も言わずに石畳の道を歩き出した。




 昼間の間明るく照っていた陽は落ちて、辺りの景色が薄青い。

 屋台の明かりが光りだしている。




 小さい女の子の玩具のアクセサリーの屋台を通り過ぎようとした所で、宗介が口を開いた。


「恋、お前、好きなやつ居ないよな?」


 恋が見上げると、宗介はいつも通りの顔で、まっすぐ恋を見返した。



「え、何で?」

「別に。」



 宗介が何も言わないので視線をずらすと、安っぽい飾りの付いた女の子のおもちゃの指輪が、屋台の明かりの下で光っている。



「好きだよってお前に言う奴どう思う?」

「え」



 恋は宵の空を見上げた。 

 一番星がもう出ていて、上の方で小さく瞬いている。



「……すぐに誰かを好きだっていう人はちょっと変だよ。」



 顔をしかめた恋の口をついて出て来たのはそんな言葉だった。



「きっと一人で恋愛してるつもりになってのぼせてるんだ。」

「……なんでそう思うの?」

「別に。」



 宗介の表情が微かに揺らいだ。

 黙ってお客の居ない子供のアクセサリーの並びに目をやる。

 宗介が聞いた。



「例えば誰かがお前を好きって言ったら、それもそういう風に取るの?」

「だって、私は誰も好きにならないし、迷惑だよ、告白なんて。」



 ふいに、どこかで花火があがったようで、ドーンと大きな音が聞こえた。

 通りすがりの人々が宵の空を見上げて囁やき合う。

 繋いでいた手がゆるくほどけて離れたのに恋は気づかなかった。 

 黙っていた宗介が口を開いた。



「……帰ったら夕飯。今日家にゼリー作ってあるから、食べに来てもいいよ。」

「え。」

「これから帰ってシャワー浴びて眠る。僕やることあるけど明日にする。今日は疲れた。」

「まだ回ってない所が……」

「いい。」



 あんまりきっぱりした口調で宗介が言ったので、恋は自分が宗介の機嫌を損ねたのに気付いた。

 おそるおそる宗介を見上げると、宗介は普段の顔で言った。


「こんなに暗いし、あんまり遅いとおばさんが心配するだろ。」


 恋が何か言う前に言った。

 
「今日は楽しかったね。」



 そっけなく、全然そんな風に思ってなさそうな口調で。



 綺羅びやかなお祭りの通りを後ろに、暗い道を歩いて二人で帰ったが、宗介はほとんど何も喋ってくれなかった。






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