幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜






 扉を開けてロビーに入ると、中は静かだった。

 ラウンジにぽつぽつとお洒落なソファが置いてあり、カウンターの小さなカフェがある。
 飲み物を飲んでいる人も居る。

 
 恋達を見つけて、待合室の方から、正装した美風が歩いてきた。



「新田さん!。みんなも。来てくれてありがとう。」

「樋山くん」

「フォーマル似合うね、樋山くん」

「そう?。今日は有名な曲を弾くから、間違えたらどうするかちょっと考えてる。暗譜は完璧にしたはずだけど。」



 美風はパタパタと軽く服を叩いてから、全員をソファの方に連れて行った。


「今日弾く曲はみんなクラシックの名曲ばかりだよ。聞いてて楽しいと思う。知ってる曲も多いと思うよ。」


 ソファに腰掛けながら美風が言った。


「恋音楽詳しい?」


 理央が聞いた。



「全然。分かんない。」

「分からなくても大丈夫。初心者が居る教室じゃないから、何聞いても聞き応えあるよ。新しくピアノを好きになるきっかけになるかも知れない。」

「私達、ちょっとお茶買ってくる」



 理央が言うと、多紀と明日香が頷いた。



「恋と樋山くんはここに居てよ。2人の分も買ってくるから。」

「分かった」



 理央達を見送ると、美風が言った。



「新田さん、その服可愛いね。」

「あ、ありがとう。」

「リボン、ちょっと解けてるよ。貸して。」



 美風は恋の背中のリボンに手を伸ばし、器用にリボン結びをし直した。


「僕の晴れの日にきれいな格好されるの嬉しいな。シフォンも水色も新田さんに似合ってる。あやかし狐って本当に綺麗だよね。」


 美風が微笑んだ。


「そういうのも励みになるよ。約束。今日は新田さんだけのために弾くね。」

「そんな」

「自分で言うのもあれだけどかなり上手いんだ。楽しみにしててね」



 恋が口を開きかけた時、エレベーターの方から、人々に混じって余所行きを着た宗介の姿が現れた。

 宗介は仏頂面で歩いてきたが、恋達の前に来ると、作り笑顔で言った。



「恋の様子を見に来ただけ。」

「来なくて良かったのに。」



 憮然とした表情で美風が言った。



「上野は余計だよ。迷惑。本当に事ある事に僕の邪魔をする奴だな。」

「そっちが。恋、聞いたらさっさと帰るぞ。ったく何が楽しくて。こいつの演奏なんか、僕は聞きたくない。」



 宗介は恋の隣に座ると、背もたれに寄りかかって美風を睨んだ。


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