幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜
7森の博物館
教室。20分休み。
「新田さん。」
前の席から振り向いて、美風が口を開いた。
「この間うちの庭でやった花火、楽しかったね。今度はいつ遊ぼうか。」
恋は、斜め後ろの席の宗介が、頬杖をついた顔をあげて、しかめっ面をしたのに気付いて、なんとなく姿勢を変えた。
「恋。」
後ろから恋を呼ぶ宗介の声の調子は尖って機嫌が良くない。
「樋山んち行ったの?。何で?。そいつには関わるなって言っただろ。何でそういう風にいつも仲良くしてるんだよ?」
「だって」
「失礼な奴。新田さんと僕がどうしようが、上野には関係ないだろ。」
「……。変な目にあったのに、遊びに行くなんてどうかしてる。考えなしなんだから。少しはしっかりしろよ。」
宗介は美風を睨んで口を開いた。
「言っとくけど、次恋に妙なマネしたら僕が黙ってないからな。恋、お前も次樋山と遊んできたら言う。」
「いっつもいっつも上野に命令されて、新田さんがかわいそうだ。こんな上から来る奴、何が良いの?。俺様なんて流行らないよ。」
「はっきり言うけど、ただのクラスメートのお前と恋の関係と、幼なじみの僕と恋の関係は違うんだ。雲泥の差があんの。樋山はいい加減にしろよ。」
「腹立つな。幼なじみを自慢して。僕もはっきり言わせて貰うけど、もう僕は新田さんに付き合ってって言って保留貰ってるから。今待ちなんだ。上野は邪魔すんなよ。」
「鬱陶しいんだよお前」
「そっちが。」
恋は2人が言い合うのをぼんやり聞いていた。
さらさらの黒髪で整った顔立ちをしたしっかり者の幼なじみと、金髪に近い淡い色の癖っ毛の美形転校生の三角関係は、学年でも有名で知らない人が居ないくらいだったが、当の本人の恋はさっぱりその事を分かっていなかった。
どうしてこの2人はこんなに嫌い合っているんだろう、と恋はいつも首を傾げる。
今と反対に格好いい男の子2人が仲良くなったら、それはそれで強いタッグなのではないか、と呑気に考えていた恋は、宗介に睨まれて肩をすくめた。
「聞いてるの?。恋。」
美風に視線をずらして宗介は命令した。
「こいつに付き纏うなって言え」
「僕と新田さんの勝手だ。」
美風がきっぱりと言い返してから言った。
「新田さん、今度の日曜、またデートしようよ。」
「!」
「デートって言わないよ……」
照れくさくなった恋が髪を触ると、美風はにっこり笑顔を見せた。
「映画のチケットがあるから2人で見に行こうよ。前にも誘ったでしょう。待ってたんだよね、2人で行くの。」
「恋、こいつに構うなよ。映画なら僕が連れてってやる。樋山なんかと遊ばない方がいい。またおかしな目にあったらお前が悪いんだぞ。」
「行くって言っちゃったから……」
「約束してくれたもんね。楽しみ!。チケット苦労して取ったんだよ。」
「ありがとう。」
「恋!」
美風が言った。
「上野は家で昼寝とかしてればいいんじゃない。」
授業が始まるまで、宗介と美風はまだぶつぶつ言い争いをしていた。