幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜
チャイムが鳴ってホームルームが終わった。
教室を出ていく生徒たち。
鞄に荷物を入れていた恋に、理央がやって来て声をかけた。
「恋、校門まで一緒に行こうよ」
「うん」
「そういや恋、恋が見たいって言ってた森の子狐の展示の博物館、もう今週始まってるよ。」
「えっ」
目を輝かせた恋を、宗介が胡散臭そうに見た。
「まーた、どこで見つけて来たんだか、子狐の展示なんて」
宗介はわざと狐を強調した。
「前から見たかったんだ。でも他県だから、ママが遠いって言って連れて行ってくれなかった。」
「ふーん」
「また同じ県でやってたよ。同じ広告が入ってた。要るって言うと思って、広告持ってきた。」
「駒井、それってどんなの?」
鞄を背負いながら宗介が聞く。
「どんなって言うか、子狐。子狐尽くしで狐ばっか。私には変な物に見えたよ。はい、恋」
理央は鞄を開けてファイルから緑色の広告を取り出すと、恋に手渡した。
「ありがとう!」
「変なもの……確かにね。」
「一緒に行ってくれない?理央」
「他県はちょっと。親が心配して駄目って言うから。ごめんね。」
恋がいそいそと博物館の広告をしまうと、三人はガラガラと戸を開けて連れ立って教室を出た。
「そういや恋、また樋山くんち行ったんだって。上野くん知ってた?」
階段を降りながら、理央が聞いた。
「今日聞いた。ったく恋も何考えてるんだか。あんな奴が良いなんて。気が知れない。」
「樋山くん誰にでも優しいよ。それにあのルックスでしょ。人気あるよ。ねえ恋何してきたの?」
「写真を見せてもらったんだ」
「お家どうだった?」
手摺を触りながら理央が聞いた。
「広かった。お母さん綺麗だった。」
「恋樋山くんと仲良いよね。上野くん、不味いよ。おちおちして居られないよ。」
「別に。僕は恋が心配なだけ。」
「ああいう王子様タイプで来られると上野くんが負けちゃう可能性もある気がする。どっちも男前だけど。上野くん、恋盗られたくなかったらさっさと告白しなよ。」
理央が言うと宗介は怒り笑いした。
「駒井はお節介。恋。」
宗介は恋を呼んで聞いた。
「聞いてた?」
恋は、聞いていなかったが反射的に頷いた。
恋は、子狐の博物館の事で頭が一杯だった。
前々から興味があって、その度に親にせがむのだが、展示はいつも他県で、連れて行って貰えなかった。
最後に同じ広告を見た時、小学六年生になった今年こそは何があっても見に行こうと、恋は密かに決意していた。
────絶対見に行こう。
恋が何も言わずに居ると、宗介がパチンと恋の頭を打った。
「何」
「ぼけっとしてんなよね。ったく。」
「恋樋山くんち行く時私も誘ってよ。みんなで押しかけようよ」
「僕は行きたくない。」
話しながら靴を履き替えると三人は昇降口から出た。