幼なじみは狐の子。〜幼なじみと転校生の溺愛〜
演劇は大好評だった。
恋の一生懸命な演技も、やる気を見せない美風のおどけた演技も逆に個性になって魅力になった。
山場のシーンでは、大道具の係も小道具の係も舞台に上がって大太刀回りの華やかな演技を披露した。
「グッジョブ!。お疲れさま!。」
演劇を終えて舞台袖に戻ってきた恋に理央が言った。
「大変だったけど終わるとなんか切ないね。これ役者にだって。」
花束を手渡された恋に遅れて、美風も舞台から戻ってきた。
「お疲れさま、新田さん」
「樋山くんもブラヴォー!いいキャラ出てたよ。はい、花束。」
「ありがとう」
「なんか呆気なく終わった気がする」
「滅多にない体験だから、記憶には残りそう。緊張はしなかったけど、大声出し疲れた。あー、終わった。」
理央が言った。
「恋、恋は先生が用事あるからまだ居てだって。あ、樋山くんは、着替えるんじゃなかったっけ?」
「そうそう。教室行ってくる。すぐ戻ってくるよ。」
花束を片手に美風が通路へ消えた。
続けて舞台袖から理央を呼ぶ声がした。
「駒井ーこれどうすんのー?」
「あ、はいはーい。じゃ、恋、ちょっと行ってくる」
恋は花束を持ったまま、舞台袖の壁に寄りかかって劇の余韻に浸っていた。
と、そこへ宗介が歩いて来た。
「恋」
宗介は恋の目の前まで来ると、トン、と拳を恋の後ろの壁に当てた。