君と青空
花凪が2年2組の教室に入り、私は逃げ出したい気持ちを抑えて、2年3組の教室に入る。
「今日こそは顔を上げよう」という強い意志とは裏腹に身体は、頭は鉛のように重く上げることができず、結局は今日も俯いたまま入ってしまう。
私は、1番ドア側の列の前から2番目の席である。
すぐそばだが、何故かそこに着くまでが1秒1秒がスローモーションしたように遅く感じる。
なぜなら、窓側の号車である1号車の後ろの方で集まっているいつも馬鹿笑いをする、“アイツら”が「得体の知れないモノが来た」かとでも言うかのように騒いでいたのに急に静かになってこちらをじっと見つめるから。
この“アイツら”はさっきの“アイツら”とは違うけど…。
私はリュックサックを下ろして鞄片付けを始める。
アイツらがコソコソなんか言っているのが見なくてもわかる。
私のことを言っているのもわかりきっている。
前を見る。
1番ドア側の号車、私がいる3号車の前に担任の先生の机がある。
そこには誰もいない。ただ配布物が置いてあるだけ。
いつもはいるはずの担任の林梅あみ(はやしうめあみ)先生がいない。
林梅先生は女子から特に絶大な人気を誇るマスコットキャラ的な優しい女性の先生。
勿論、この人も“いじり”のことは、目の前で“いじり”をされていても気づかない。
リュックサックを置こうと、私のロッカーがある1号車の後ろ側に行く。
アイツらはまたコソコソ喋り始めたけど、また騒ぎ始める。
学校用のタブレットでくだらないゲームでもやっているのだろう。
馬鹿みたいだ。
『だから、日夏。こんな馬鹿な男子どもに何かされたとしてもそれを気にするのは愚劣なことなんだからね。』
そうだ、そうなんだ。
私は気にしてなんかいない。
悲しんでなんかいない。
苦しんでなんかいない。
だから愚劣な、考え方までも劣った人ではないと思いたい。
そう思いながら、冷房が効きすぎて寒いから、体操服の上にジャージを着て、椅子に座る。
生活の記録を前の席で班長の梅中李和香(うめなかりわか)ちゃんの机に置く。
私はさっきのことを思い出しそうになって、そのことをなかったことにするために二見先生のことを想い浮かべる。
さっきのことを忘れるためには、無かったことにするためには二見先生のことを想わないといけない。