30歳、年下わんこに愛されています
 『ごめん、今日会えない』

 そんなLINEが届いたのは、昼を過ぎた頃。

 柏木 朔(かしわぎ さく)四十歳。
 彼にドタキャンされるのは、もう慣れたことだった。

 だけど、今日だけは違うと思っていた。
 今日くらいは、私の隣にいてくれると信じていた。

 
 遠藤 沙良(えんどう さら)
 今日は私の三十歳の誕生日だからだ。

 朝、いつもより丁寧に髪をまとめた。
 お気に入りのワンピースを着て、出勤する。

 鏡の前で小さく「よし」と呟く自分が、少しだけ可笑しかった。

 特別な日だから、メイクもほんの少し濃いめにした。
 
「今日、綺麗だね」って言ってもらえるのを、密かに期待して、出勤してからも、頭の片隅ではずっと夜のことを考えていた。

 昼休みの時間、スマホを開けば、朔とのトーク画面が一番上に並んでいる。

 「夜、七時にいつもの場所で」

 昨日の夜、彼がそう言ってくれた言葉を何度も見返した。

 同僚の何気ない「今日、何かあるの?」の一言に「ううん、別に」と笑ってごまかす。

 胸の奥が、少しだけくすぐったくて、少しだけ苦しい。
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