社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません!
「社長室で話をした。“浅賀“としての修行のこと。それから俺のこれからの生き方について」

その言葉に少し緊張が走る。亮くんがこの先どうなっていくのか想像がつかず、根拠のない不安が怖い。

「きちんと話してきたんだ。父は“人を知れ“と言ってたけど、俺はようやくその意味がわかった気がする」

彼は少し笑いながら、手にした湯呑みに視線を落とす。

「優しい人も意地悪な人も、支えてくれる人も噂を面白がる人も、全部ひっくるめて“人“なんだって実感した。そんな中で、俺はどう生きたいかを選ばないといけない」

「うん……」

今回いろんなことがあり、私もいままで以上に色々な人がいるんだと実感した。でもそれが社会で、これから彼が率いていく会社だ。色々な人がいて当たり前。それどう一緒の方向に向いていけるように考えていく立場になるのが彼。でも彼は人を押しのけるようなやり方はしないとわかっている。

「今朝ね、亮くんがいないのに気がついて本当にびっくりしたの。こんなこと初めてだから。でもね、なぜかどんなことがあっても亮くんはここに帰ってくるって不意に感じたの。私はここで亮くんを待っていればいいんだって思った」

「そうか」

彼は黙って湯呑みを置くと、そのまま私の頭にその手を伸ばす。頭にのるその指先は少しだけ震えているような気がした。

「小春がいなかったら、何もかも嫌になっていたかも知れない。でもここで小春が待っていてくれると思えば強くなれる」

「私がいなくても亮くんはきっと自分の力で歩いてきたはずよ」

それは謙遜でもなんでもない。本当に彼は強い人だから。あの頃からずっと見てきた彼は自分の歩く道がきちんと見えている。それに向かって歩ける人だとわかっている。

「でもその道の端っこで小春が待っていてくれる」

その言葉に思わず涙が滲む。そのまま彼の胸に飛び込んだ。こんな風に思っていることを口にしてくれた彼に私は感情が昂る。彼の服にしがみつき、声を消すように顔を埋めた。

「名前が変わっても、立場が変わっても変わらずここにいてくれよ」

そんな声が聞こえてきた。
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