敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
 翌日、千尋と美絃は大型ショッピングモールを訪れている。
 
「部長っ、もう十分です!!」
「何を言ってるんだ。これくらいじゃ、クローゼットの中がいっぱいにはならないぞ」
「なっ……(何を言い出すかと思えば!)、別にクローゼットの中を埋めなくても! 着回しすれば十分ですし、これ以上はさすがに手持ちが間に合うかどうか……」
「あ、そんなことか。婚約者なんだから、甘えればいい」
 
 当然とばかりに、余裕の表情を浮かべる千尋。
 美絃はハラハラおおろおろとしてしまう。

(婚約者のふり(・・)ですよ! 本物の婚約者だとしても、普通こんなに買いませんから!)

 土曜日の昼過ぎのモール内。
 親子連れやカップルで賑わう中、千尋は次々と美絃の服を選び、ショップの店員に持たせている。
 しかも、ハイブランドのショップだから、ブラウス数枚だけでも相当な額だ。
 
 結局、靴や鞄、普段着や下着、化粧品や日用品に至るまで、千尋は全て買い揃えてしまったのだった。

 帰りに、千尋の行きつけの和食処で夕食を済ませ、マンションに帰宅したのが二十時少し前。
 何とも言えない緊張感が途切れて、美絃はリビングのソファに倒れ込んだ。

「風呂に入るか?」

 寝室へと向かっていったはずの千尋が、美絃の姿を見て舞い戻って来た。
 
「悪かったな、疲れさせて……」

 少し骨ばった大きな手が、美絃の髪をゆっくりと梳く。
 千尋の落ち着いた声音と壊れ物を扱うみたいな優しい指先に、美絃の胸はキュッと僅かに疼いた。
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