敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
 週明けの月曜日。
 千尋に買って貰ったスーツを身に纏い、いつも通りにひっつめ気味に髪を束ねた姿でゲストルームから出て来た美絃。

「本当にいいのか?」
「はい、ご心配なく!」

 美絃は両手を突き出すようにして、きっぱりと断った。
 というのも、『同じ場所に出勤するんだから、俺の車に乗って行けばいい』という千尋の言葉を丁重にお断りしたのに、朝食の間もずっと何度も声をかけて来るから、さすがの美絃も態度で示したのだ。

(誰かに見られたら大変だし、そもそも三日前までは誠二と付き合っていることになっているのに、週が明けた途端に郡司部長の車に乗って出勤だなんて、なんの御冗談を)

「もう一度言いますが、会社では『業務部の高岡』と『海外事業部の統括部長』ですからね!?」
「はいはい、分かったよ」

 両親の前だけ、婚約者のふりをすればいい話で、会社でも婚約者になりきらなくてもいいのだから。
 千尋は『そんな線引き要らないだろ』と言うが、さすがに平社員とエリート社員の接点が見出せない。
 一億歩譲って食事をする仲だとしても、さすがに金曜の今日で乗り換えたとなれば、醜聞が立つ。

(それでなくても、彼は女性社員に激モテなのに……。私みたいな庶民が、気軽に話していい相手じゃない)

「では、お先に……」
「美絃」

 玄関まで見送りに来た千尋は、ドアノブに手をかけた美絃を呼び止めた。
 美絃はゆっくりと振り向くと。

「何か、忘れてないか?」
「へ? ……何も忘れてませんよっ! 行って来ます!」

 両手を広げて、行って来ますのハグやチューを期待した千尋だが、さすがに無理だったようだ。

(まぁ、今日のところは見逃してやるか)
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