敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
 美絃は玄関ドアに張り付けられるようにして唇を奪われた。
 
 仁香さんは婚約者ではなく、挙式の日取りの話でもなかった。
 仁香さんにはちゃんと婚約者がいて、今日は私たちの仲を取り持つために、悪役を買って出てくれたらしい。
 さらには、私の後を追って飛び出した彼は、私の行方を必死に探していたらしい。

 もう隠さなくていいんだ。
 彼を好きな気持ちを。

 熱く塞がれる唇から、甘い吐息が漏れ出す。

「今日の髪型、可愛いな」
「ふぇっ」
「マスカラも付けてるんだな、珍しい」

 間近から精悍な顔つきの彼に見つめられて、思わず顔が紅潮する。

(ちゃんと見ててくれたんだ。……って、ちょっと待って! 泣いたからマスカラが落ちてない?!)

 美絃はハッとして千尋の胸に両手をついて押しやった。

「みっ、……見ないで。酷い顔になってると思うから……」
「俺のせいで泣かせたんだし、どんな顔でも可愛いよ」

 パンダ顔になっているであろうに、彼は嬉しそうに瞼に口づけをした。

 美絃の腰を支えていた手が少しずつせり上がり、美絃は這い伝う腕をぎゅっと押さえた。

「千尋さん、……ごめんなさい、これ以上は……」
「ごめん、急にじゃ、嫌だったよな」
「あ、いえ……そういう意味じゃなくて……。その、今日は……アレの日なので」
「……フッ、そういうことね。了解。じゃあ、キスだけならいいよな?」
「っっ……」

 恥ずかしくて直視できない美絃は両手で顔を覆うと、その手の甲にキスを落として来る千尋。
 もう彼との同棲生活は終わりだと思っていたのに、こんなにも甘い時間が訪れるだなんて……。
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