敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
 六月下旬の金曜日の十八時半。
 美絃はホテルのロビーで恋人の誠二と待ち合わせをしている。

 今日は交際二周年を祝って、四つ星ホテルのレストランで食事をする予定だ。
 しかも、誠二には内緒で、北海道から両親を呼んでいる。
 泉と夕輔のアドバイスもあって、やはり強行突破を試みることにしたのだ。

(緊張する……。大丈夫かな……? 先にトイレに行っておこうかな)

 メイク直しも兼ねて、化粧室へと向かった。



 誠二が待ち合わせのホテルのロビーに到着すると、カフェラウンジから出て来た夕輔に気付く。

「着いてんなら、連絡くらい入れてよ。俺、ずっとラウンジで時間潰して待ってたのに。……うん、姉貴はもうすぐ来ると思う。もう個室にいるんでしょ? すぐ行くから……」

(は? 何なに、どうなってんの? もしかして、俺、ハメられた? ってか、あの美絃がこの俺を騙して……マジでありえねーんだけど!)

 誠二は夕輔がスマホで親と会話しているのを見聞きしてしまい、今日の食事が親との会食なのだと知った。
 珍しく美絃から『ホテルでお祝いしよう?』だなんて言われて、誠二は浮かれていた。

「誠二くん、早かったね。お仕事お疲れさま」

 化粧室から戻った美絃は、ふわっとした柔らかい笑みを浮かべて、誠二の腕に自身の腕を絡ませようとした、次の瞬間。

「お前っ、今日……記念日の食事じゃねーだろ!」
「え?」
「もうバレてんだよっ! さっき目の前を(ゆう)が通り過ぎながら、親と電話してたんだよ」
「ち、違う人かもしれないじゃない」
「マジで言い切れんのか?」
「っっ……それは……」

 美絃の態度で確信した誠二は、更に言葉を続けた。

「お前その容姿で、俺と結婚できるとか思ってんじゃねーよな?」
「っ……」
「俺が優しくしてるから麻痺してんのかもしんねーけど、お前みたいな陰気臭ぇ女、俺だから、我慢して付き合ってやれたんだぞ」

 四つ星ホテルのロビーは、思った以上に人が多い。
 美絃は恥ずかしさと悲しさとで、思うように言葉が出ない。

「お前とは結婚する気なんて微塵もねーから。お前とは、たった今、今日限りな」

 暴言ともとれる別れの言葉を吐き捨てた誠二は振り返ることなく、その場を去った。
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