敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
 四つ星ホテルのロビーで、美絃は彼に捨てられてしまった。
 足下から崩れ落ちそうになるのを必死に堪えて立っている。

(彼が怒るのは想定内だったけど、……まさか、別れることになるだなんて……)

 混雑するロビーの一角で、美絃は魂が抜けたような状態に陥っていた。

 北海道の函館から、わざわざ上京してくれた親になんて伝えればいいのか。
 ハンマーで打ち砕かれたような美絃の頭では、思うように答えが見出せない。

 コートのポケットの中にあるスマホが、さっきからずっとブブブッと震えている。
 きっと母親からに違いない。
 待ちに待った今日という日を、ずっと楽しみにしてくれていたから。
 美絃は、重い足取りで両親と弟が待つレストランの個室へと向かった。

 赤とゴールドを基調とした内装に目もくれず、レストランスタッフに案内された個室の前に。
 扉は解放されていて、ダークブラウンの衝立が入口を塞いでいる。
 深呼吸を何度か繰り返し、意を決した。

「遅くなってごめんね~、道が渋滞してて」

 脳内で考え抜いた言い訳を並べ、家族の元へと踏み出した。

「あら、彼氏さんは? 遅れてくるの?」

 恋人の姿が見当たらないから、入口の方へ視線を向ける母親。
 夕輔は不思議そうに首を傾げた。

「あのねっ、実は……」

『たった今、別れました』と言おうとした、その時。

「遅くなり申し訳ありません! 初めまして。美絃さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂いております、郡司 千尋と申します」

 と、落ち着いた声音で挨拶しながら、美絃の手をスッと握る男性が現れた。

「ぶっ……」

『部長!』と声を荒げそうになった美絃の手を、言葉を制するようにきつく握る男性。
 数時間前にエレベーターホールで会話した、あの郡司部長だ。
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